フローレス島での人類の痕跡は100万年前までさかのぼる

 フローレス島で新たに発見された石器は、100万年前までさかのぼることを示した研究(Brumm et al., 2010)が報道(Dalton., 2010)されました。この論文は、オンライン版での先行公開となります。フローレス島のソア盆地のマタメンゲとボアレサでは、以前に石器が発見されており、ジルコン=フィッショントラック法年代測定により、フローレス島には880000±70000年前までに人類が到達していた、とされていました。

 この研究では、近年になって同じくソア盆地で発見されたウォロセガ遺跡の年代が、アルゴン40-アルゴン39年代測定法により示されました。ウォロセガ遺跡の石器が発見された層は、層序学的にはマタメンゲの石器が発見された層よりも古く、石器の上を覆う火砕流堆積物は、アルゴン40-アルゴン39年代測定法により、1020000±20000年前のものであることが明らかになりました。遅くとも100万年前までには、フローレス島に人類が到達していたことになります。

 また、以前の年代観では、フローレス島での最初の人類の痕跡と、フローレス島固有の小型象(Stegodon sondaari)や大型の亀(Geochelone spp)の絶滅とがほぼ同時期だったことから、その絶滅の要因は人類にあるのではないか、と考えられていたのですが、今回示された新たな年代により、これらの動物の絶滅の要因は、むしろ自然環境にあるのではないか、と指摘されています。さらに、フローレス島の火山や河川・湖水の堆積物は、フローレス島への人類の最初の到達を記録するほどの古さではないように思われる、と指摘されており、フローレス島への人類の到達が古くなる可能性も示唆されています。

 ウィリアム=ユンガー博士は、この100万年前頃のフローレス島の石器文化の担い手は、更新世末期のホモ=フロレシエンシスの祖先だろう、と考えています。まだ、100万年前頃のフローレス島の人骨は発見されていないのですが、その可能性は高いでしょう。フロレシエンシスがどの人類種からどのように進化したのか、という問題の解明のためにも、ソア盆地を中心として、フローレス島でのさらなる発掘と研究の進展が期待されます。


参考文献:
Brumm A. et al.(2010): Hominins on Flores, Indonesia, by one million years ago. Nature, 464, 748-752.
http://dx.doi.org/10.1038/nature08844

Dalton R.(2010): Hobbit origins pushed back. Nature, 464, 335.
http://dx.doi.org/10.1038/464335a

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