南部アフリカ人のゲノム
南部アフリカ人のゲノムについての研究(Schuster et al., 2010)が公表されました。この研究では、アフリカ南部のコイサン族とバントゥー族それぞれ1人ずつの完全なゲノム塩基配列が解読され、さらに、カラハリ砂漠の別々の地域に住む採集狩猟民3人のタンパク質コード領域の塩基配列が提示されています。じゅうらいのミトコンドリアDNAや少数の核DNAの研究から、コイサン族は現代人のなかでもっとも古く遺伝的に他集団と分岐した集団である、とされています。これまでに塩基配列を完全に解読された人間のゲノムは、最近になって分岐した集団由来のものに限られていたので、現代人の系統関係・遺伝的近縁度をより精確に測定する意味でも、重要な研究と言えるでしょう。
上記の5人のDNA分析の結果を受けて、5人の間のゲノム全域およびすべてのタンパク質コード領域の多様性の程度が調べられ、ゲノム全域でこれまで知られていなかったアミノ酸の相違13146ヶ所を含む130万もの新たなDNAの差異が明らかにされました。塩基置換という点では、コイサン族は、ヨーロッパ人とアジア人の間と比較して、平均して互いの間の差異が大きい、ということが明らかになりました。また、採集狩猟民と他の人々のゲノムにみられる違いが、農耕型生活様式への遺伝的適応である可能性についても指摘されています。
コイサン族が現代人のなかでもっとも古く遺伝的に他集団と分岐した集団である可能性は以前から指摘されており、
https://sicambre.seesaa.net/article/200804article_29.html
その意味では意外な結果ではないのですが、コイサン族の完全なゲノム塩基配列が解読されたことには、大きな意味があると言えるでしょう。なお、コイサン族を現生人類最古の系統・最古の現生人類集団と表現し、コイサン族の言語と想定される現生人類の原初の言語との類似性を指摘する見解をネットなどでしばしば見かけるのですが、コイサン族は現代人の他集団と遺伝的に分岐した後も、他集団と同様に進化し、他集団と接触しつつ進化してきたことを考えると、問題のある表現・見解なのではないか、と思います。
参考文献:
Schuster SC. et al.(2010): Complete Khoisan and Bantu genomes from southern Africa. Nature, 463, 943-947.
http://dx.doi.org/10.1038/nature08795
上記の5人のDNA分析の結果を受けて、5人の間のゲノム全域およびすべてのタンパク質コード領域の多様性の程度が調べられ、ゲノム全域でこれまで知られていなかったアミノ酸の相違13146ヶ所を含む130万もの新たなDNAの差異が明らかにされました。塩基置換という点では、コイサン族は、ヨーロッパ人とアジア人の間と比較して、平均して互いの間の差異が大きい、ということが明らかになりました。また、採集狩猟民と他の人々のゲノムにみられる違いが、農耕型生活様式への遺伝的適応である可能性についても指摘されています。
コイサン族が現代人のなかでもっとも古く遺伝的に他集団と分岐した集団である可能性は以前から指摘されており、
https://sicambre.seesaa.net/article/200804article_29.html
その意味では意外な結果ではないのですが、コイサン族の完全なゲノム塩基配列が解読されたことには、大きな意味があると言えるでしょう。なお、コイサン族を現生人類最古の系統・最古の現生人類集団と表現し、コイサン族の言語と想定される現生人類の原初の言語との類似性を指摘する見解をネットなどでしばしば見かけるのですが、コイサン族は現代人の他集団と遺伝的に分岐した後も、他集団と同様に進化し、他集団と接触しつつ進化してきたことを考えると、問題のある表現・見解なのではないか、と思います。
参考文献:
Schuster SC. et al.(2010): Complete Khoisan and Bantu genomes from southern Africa. Nature, 463, 943-947.
http://dx.doi.org/10.1038/nature08795
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