堀新『日本中世の歴史7 天下統一から鎖国へ』

 吉川弘文館より2009年12月に刊行されました。織田信長の台頭から「鎖国の完成」という、現代日本では一般にも大きな関心をもたれている時代が扱われており、おそらく、この『日本中世の歴史』全7巻のなかで、もっとも売れるだろうと思います。本書の特徴は、武家と朝廷との関係を相互補完的な公武結合王権とする認識に基づいて、この時代の政治史を叙述している点です。

 確かに、この時代を朝廷と武家という二項対立的な図式でたんじゅんに把握できるものではないでしょうが、一方で、本書は近年の研究における朝廷の影響力の過大評価を指摘しており、全体として、朝廷と武家権力との関係についての記述が多すぎたように思われます。その分、有力大名同士の争いについての記述が少ないのですが、桶狭間の戦いは不必要と思えるほど詳しく書かれており、どうも記述に偏りがあるように思われます。おそらく、期待はずれだったと考える読者は少なくないでしょう。とはいえ、つまらなかったかというとそうではなく、なかなか面白く読めました。

 本書の刊行をもって『日本中世の歴史』全7巻は完結することになりました。「近年の〈通史〉とは異なり、歴史の基本となる政治の動向を中心に、最新の成果を取り入れ、わかりやすく解説した本格的通史」との編集方針に沿って、
https://sicambre.seesaa.net/article/200904article_22.html
各巻政治史重視の叙述になっていました。確かに、近年の一般向け通史は政治史以外の叙述の割合が多いように思われ、このように政治史中心の一般向け通史は、かえって新鮮な感も受けましたが、全体的には、やや偏っているかな、との印象を受けました。これは、私が近年の一般向け通史に慣れてしまったからかもしれません。とはいえ、大外れの巻はなく、一般向け通史として総合的にはなかなかの出来になっているのではないか、と思います。

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