古気候の見直し

 過去の間氷期の気温を見直した研究(Sime et al., 2009)が公表されました。じゅうらいの過去の気温についての研究では、水素と酸素の同位体比と気温の関係が空間的にも時間的にも安定である、という仮定に基づいていました。しかしこの研究では、南極から得られた34万年前の3つの氷床コアが分析され、同位体を組み込んだ大循環モデルが用いられて、同位体比と気温の関係は非線形的であることが明らかにされています。この研究によると、温暖な期間には同位体比は温度にたいする感度がより低く、そのため、これまでの間氷期の気温の見積もりは約3℃低かったと推測され、この推定は、南極の間氷期の最高気温が現在より少なくとも6℃高かったことと矛盾しない、とのことです。

 過去の気候の復元はなかなか難しく、今後も、氷床コアなどの分析データを蓄積していくとともに、さまざまな気候変動モデルを用いて検証していくことが必要なのでしょう。この研究は、古人類学の分野でも注目されます。人類の活動に気候が大きな影響を与えていることは言うまでもありませんが、とくに人類の技術的水準というか社会的蓄積がある水準(中期石器時代のある時期以降)を超えるまでは、人類の生息域がかなりのところ気候に制約されていたことは間違いなく、高緯度地域への進出は、温暖期でないとなかなか難しかっただろう、と思われます。


参考文献:
Sime LC. et al.(2009): Evidence for warmer interglacials in East Antarctic ice cores. Nature, 462, 342-345.
http://dx.doi.org/10.1038/nature08564

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