大河ドラマ『風と雲と虹と』第11回「餓狼の頭目」

 今回は、将門の登場時間が少なく、実質的には純友が主役の回となりました。伊予掾に任命され、伊予へと向かった純友は、螻蛄婆の仲介により、淡路島を縄張りとする有力な海賊団の首領である藤原恒利と面会します。恒利が純友の船に使わした遊女たちの一人である千載が、恒利の館まで純友を案内したのでした。純友と恒利はお互いに相手の腹を探り合うような会話をかわし、純友の人物の大きさに感銘を受けた恒利は、純友に従うことを誓います。

 恒利と純友とは打ち解けたようにも見えますが、「海賊大将軍」の先に純友が何を目指すのか、純友が恒利に明かさなかったため、心の底から打ち解けたわけではない、とも解釈できます。もっとも、「海賊大将軍」の先に目指すものが何なのか、純友自身にもまだよく見えていないため、ないものを語るわけにはいかない、という純友の恒利への発言は嘘ではないでしょう。しかし、恒利の側にはわだかまりがあるようです。恒利を演じているのは今福正雄氏で、癖のありそうな恒利を今福氏は好演しています。千載を演じているのは五十嵐淳子氏で、やはり美しいな、と改めて思ったものです。この作品は、主要な女優の美しさ・華やかさという点では、『天地人』に匹敵するくらい質が高いと言えるでしょう。もっとも、『天地人』は、謙信役の阿部寛氏の演技以外、ほとんどそれしか見所がないのが残念ではありますが。

 恒利の館から船に戻った純友は、山陽道の巡見使で、海賊退治に励む藤原子高を見かけます。螻蛄婆から、子高の悪い噂を聞いた純友は、子高の人物を見究めようと、進物を携えて子高を訪ねます。海賊とは元々民人であり、海賊と民人との区別をつけず、厳しく対処し、一日に人数を決めて民人を海賊と決めつけて処刑していけば、民人は海賊を恨むようになって海賊の居場所を通報するようになり、自分も国司も功績を挙げられるのだ、と得意気に語る子高にたいして、純友は激しく怒りますが、表面上は子高を持ち上げます。その後、子高が千載を侍らせようとしたのを見た純友は、千載を救い、子高に一泡吹かせるため、螻蛄婆の協力を得て、老女に変装した螻蛄婆を寝所に潜り込ませ、子高は慌てふためきます。

 伊予国府に到着した純友は、守の平維久と、介の藤原正経と面会します。純友が進物を携えてきたことに、維久は素直に喜びます。維久はいかにも好々爺といった感じですが、正経は癖のありそうな複雑な人物といった感じで、演じているのが寺田農氏だけに、今後の動向が楽しみです。純友は一旦国府を辞し、故郷に帰って息子と再会します。息子との再会を喜ぶ様子からは、冷徹でありながら感情豊かだという純友の複雑な個性が読み取れます。

 一方、都にいる将門と三宅清忠は、大学寮の学生であり、純友と通じている紀豊之や他の学生から、腐敗した現在の朝廷を倒す自分たちの試みに同心するよう誘われます。儀式に明け暮れ、民人の生活を顧みない腐った朝廷が倒れないのは、民人の側に朝廷への信仰があるからだ、と力説する豊之は、その信仰を崩してやるのだ、と興奮して主張します。しかし、将門と清忠は彼らの言動に危うさを感じ、同調しませんでした。その後、内裏に動物の死骸を捨て去るなど、朝廷の禁忌に触れるような挑発を繰り返した学生たちですが、ついに捕らえられ、連行される姿を将門が見つめる、というところで今回は終了です。正義感の強さと感情の激しさを前面に出した豊之を演じた綿引洪氏(後に綿引勝彦と改名)の表現は見事で、この作品の配役は本当に素晴らしい、と改めて思ったものです。

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