中央ヨーロッパ最初期の農耕は移住民によってもたらされた?

 中央ヨーロッパ最初期の農耕は移住民によってもたらされたのではないか、との研究(Bramanti et al., 2009)が報道されました。中央ヨーロッパでは、7500年前頃に農耕が開始されました。この研究では、初期農耕民・後期ヨーロッパ採集狩猟民・現代中央ヨーロッパ人のミトコンドリアDNAが比較され、古代の採集狩猟民のほとんど(82%)は、現在の中央ヨーロッパでは比較的まれなミトコンドリアDNAタイプを共有しているなど、3集団間で大きな遺伝的違いが見出された、と指摘されています。

 こうしたことからこの研究では、中央ヨーロッパの初期農耕民は、先住の採集狩猟民の子孫ではなく、移住者だった、との見解が説得的だとされています。ただ、中央ヨーロッパの初期農耕民の正確な起源地については、より詳細な調査が必要だとされています。また上記報道では、移住者と考えられる初期農耕民と、先住の採集狩猟民だけでは現代ヨーロッパ人の遺伝的構成は説明できない、とも指摘されています。

 これはたいへん興味深い研究で、現代ヨーロッパ人と旧石器時代のヨーロッパ人との遺伝的連続性を指摘する論者(Sykes.,2001)との議論が注目されます。今後の課題としては、調査対象地域をさらに拡大していくことと、古人骨において、採集狩猟民と初期農耕民とをどのように区別するのか、ということが挙げられます。とくに問題となるのは後者で、今後長く、判断基準が議論されることでしょう。


参考文献:
Bramanti B. et al.(2009): Genetic Discontinuity Between Local Hunter-Gatherers and Central Europe’s First Farmers. Science, 326, 5949, 137-140.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1176869

Sykes B.著(2001)、大野晶子訳『イヴの七人の娘たち』(ソニー・マガジンズ社、原書の刊行は2001年)

この記事へのコメント

2009年10月07日 18:23
お久しぶりです。「中央ヨーロッパ」の地域範囲が微妙ですが、ヨーロッパ半島への農耕の伝播は、メソポタミア・エジプト方面からバルカン半島への移民によって行われたと考えるのが自然だと思います。
2009年10月07日 23:57
これはお久しぶりです。

おっしゃるように、ヨーロッパの農耕の起源は西アジアにあるのでしょうが、最初の農耕民が移住者にしても、その後も(新石器時代の西アジアからの)移住者およびその子孫がヨーロッパの農耕民の主流だったか否かとなると、議論のあるところだと思います。

近年では、初期農耕の主要な担い手は移住者だったとの見解が有力なようですが、この問題の決着はまだ先のことだろう、と思います。

この記事へのトラックバック