大河ドラマ『風と雲と虹と』第10回「純友西へ」

 将門は貞盛とともに貴子の屋敷で楽しい時を過ごします。色男の貞盛はさすがにこのような場に慣れていて、貴子とも打ち解けます。ただ、貴子は饒舌な貞盛よりも不器用で誠実そうな将門のほうに好意を持っており、貞盛もそのことに気づいているようです。貞盛はその後も進物をもって貴子の屋敷を頻繁に訪れており、郎党からそのことを聞いた将門は、不安に思いつつも、心配ないと言います。貞盛が将門に友情を抱いているように、将門も貞盛に友情を抱いており、内心では不安に思いつつも、それを公言できない、という将門の心理がよく描かれています。

 貞盛は、小督のことはどうでもよいではないか、早く貴子をものにしてしまえ、と将門に言い、さもなければ自分のものにするぞ、と示唆します。将門は小督と貞盛が恋仲にあることを知らず、将門には貞盛への悪意はまったくなかったのですが、かつて将門は小督と結ばれたことがあり、色男としての自負と将門への友情から、そのことで将門を責めたことはなかった貞盛ですが、やはりまだわだかまりがあるようです。

 今回は、将門があまり目立たず、純友が実質的な主役になった感がありました。純友は藤原仲平の家人で、久々に仲平に呼ばれると、伊予掾に任命される、との話を聞きます。その意図は、近頃瀬戸内海を横行している海賊を純友に討伐せよ、とのことでした。純友はこれを受け、伊予へと向かう決意をします。純友の送別の宴が開かれ、傀儡の一員の美濃に案内された将門も、螻蛄婆や三宅清忠と同席します。

 ここで将門は、純友や螻蛄婆から、海賊が本来は民人であったことや、海賊に国境はないということを聞かされます。螻蛄婆は、海賊には日本と高麗との国境などないのだ、と力説しますが、現在の東アジア海域論とも通ずるところがあり、なかなか興味深いものがあります。純友は、自分の大望を実現するために何をやるべきなのか、まだ分からないのですが、この伊予赴任でそれが見えてくるのではないか、と示唆するような話の展開になっています。

 純友と恋仲にある盗賊団の首領である武蔵は、純友との別れを悲しみます。純友に、ともに伊予に行かないか、と誘われた武蔵ですが、自分たちは海では役立たずだし、純友が好きなのは、荒くれた男たちを束ねて縦横無尽に活動する盗賊団の首領としての自分なのだから、と考えて都に残ります。ここで、武蔵の過去がわずかながら明らかになるとともに、武蔵たちが民人から搾取している強欲な役人たちからしか盗まないのは、純友の影響だということは判明します。脇役の人物像もしっかり練られているのが、この作品の魅力の一つになっている、と言えるでしょう。

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