ネアンデルタール人と現生人類との交雑の可能性について
ネアンデルタール人と現生人類との交雑の可能性についての、スバンテ=ペーボ博士の見解が報道されました。ペーボ博士は、ドイツのライプツィヒにあるマックス=プランク進化人類学研究所の遺伝学部門長で、ネアンデルタール人のDNAに関する第一人者とも言うべき研究者です。ネアンデルタール人の全ゲノム解読についてのペーボ博士の分析は、まもなく刊行されるとのことです。
現生人類のアフリカ単一起源説が圧倒的に優勢となって以降、ネアンデルタール人がヨーロッパや西アジアの現生人類へと進化したという見解は葬り去られ、ネアンデルタール人と現生人類との間に交雑があったのか、あったとしてどの程度だったのか、現代人にネアンデルタール人の遺伝子は継承されているのか、ということが古人類学における主要な関心の一つになっていました。これまでのところ、古人骨の分析からネアンデルタール人と現生人類との交雑を指摘する見解が根強く主張されているものの、多数の同意を得るにはいたっておらず、両者のミトコンドリアDNAの分析・比較から、両者の間に交雑はなかっただろう、との見解が有力になっていました。
遺伝学の分野でも、現代人の核DNAの分析を根拠としてネアンデルタール人と現生人類との交雑を主張する見解もありますが、ペーボ博士らが中心となって進められているネアンデルタール人のゲノム解読のこれまでの成果では、両者の交雑を示す直接的証拠は得られておらず、やはり両者の間に交雑はなかったのではないか、との見解がさらに有力になりつつあるようにも思われました。
ところがこの報道によると、ペーボ博士は、ネアンデルタール人と現生人類との間に性交渉があったことを確信しており、問われるべきは、両者の間に子供が生まれたのか、生まれたとして、その子供たちがどのていどの繁殖能力を持っており、現代人の遺伝子にどのていど寄与したのかということだ、と考えているとのことです。この報道を読んでも、なぜペーボ博士が両者の性交渉を確信したのか、よく分からないのですが、5~6年前に、現生人類が完全にネアンデルタール人に置き換わった、との完全置換説から限定的交雑説に転向した私にとっては、なんとも心強い報道であり、間もなく刊行されるであろうペーボ博士の分析が楽しみです。
現生人類アフリカ単一起源説の代表的な論者であるクリス=ストリンガー博士は、ネアンデルタール人と現生人類との間の子供は、両集団の遺伝的障壁により、繁殖能力が低かった可能性を指摘しています。これは、ライオンと虎や馬とシマウマとの間の雑種でも見られる現象です。ネアンデルタール人と現生人類との間にそのような遺伝的障壁があったのかということも、ネアンデルタール人のゲノム解読完了後のネアンデルタール人と現代人とのゲノム比較により、判明するかもしれません。
興味深いのは、ネアンデルタール人は原始的だと考えてきたが、末期ネアンデルタール人は現生人類のようにビーズの如き装飾品を作り、複雑な埋葬を行なっていた、とのストリンガー博士の見解です。現生人類アフリカ単一起源説が優勢になって以降、ネアンデルタール人と現生人類との違い、さらにはネアンデルタール人にたいする現生人類の知的側面での優位を強調する見解が優勢になり、ストリンガー博士はそうした傾向を推し進めた中心的人物の一人だ、と私は考えてきただけに、近年のネアンデルタール人「復権」の傾向は今や確固たるものになったのではないか、と思います。
この報道では、ネアンデルタール人が絶滅してから長い時間が経過したために、現代人におけるネアンデルタール人由来のDNAの痕跡は、検出され得る水準以下に薄められたのではないか、と指摘されていますが、これはこの5~6年の私の見解と一致しており、今後の研究の進展により、この見解が証明されることを期待しています。ただ、ネアンデルタール人と現代人のゲノム比較でこれを証明するのはなかなか難しそうで、両者が共存していた時期の西アジアやヨーロッパの古人骨の核DNAを分析・比較するほうが、両者の交雑の直接の遺伝的証拠を検出しやすいのではないか、と思います。もっともこの場合、そもそも古人骨から核DNAを抽出すること自体がきわめて難しいうえに、試料汚染の可能性があるので、結局のところもっと難易度が高いかもしれません。
現生人類のアフリカ単一起源説が圧倒的に優勢となって以降、ネアンデルタール人がヨーロッパや西アジアの現生人類へと進化したという見解は葬り去られ、ネアンデルタール人と現生人類との間に交雑があったのか、あったとしてどの程度だったのか、現代人にネアンデルタール人の遺伝子は継承されているのか、ということが古人類学における主要な関心の一つになっていました。これまでのところ、古人骨の分析からネアンデルタール人と現生人類との交雑を指摘する見解が根強く主張されているものの、多数の同意を得るにはいたっておらず、両者のミトコンドリアDNAの分析・比較から、両者の間に交雑はなかっただろう、との見解が有力になっていました。
遺伝学の分野でも、現代人の核DNAの分析を根拠としてネアンデルタール人と現生人類との交雑を主張する見解もありますが、ペーボ博士らが中心となって進められているネアンデルタール人のゲノム解読のこれまでの成果では、両者の交雑を示す直接的証拠は得られておらず、やはり両者の間に交雑はなかったのではないか、との見解がさらに有力になりつつあるようにも思われました。
ところがこの報道によると、ペーボ博士は、ネアンデルタール人と現生人類との間に性交渉があったことを確信しており、問われるべきは、両者の間に子供が生まれたのか、生まれたとして、その子供たちがどのていどの繁殖能力を持っており、現代人の遺伝子にどのていど寄与したのかということだ、と考えているとのことです。この報道を読んでも、なぜペーボ博士が両者の性交渉を確信したのか、よく分からないのですが、5~6年前に、現生人類が完全にネアンデルタール人に置き換わった、との完全置換説から限定的交雑説に転向した私にとっては、なんとも心強い報道であり、間もなく刊行されるであろうペーボ博士の分析が楽しみです。
現生人類アフリカ単一起源説の代表的な論者であるクリス=ストリンガー博士は、ネアンデルタール人と現生人類との間の子供は、両集団の遺伝的障壁により、繁殖能力が低かった可能性を指摘しています。これは、ライオンと虎や馬とシマウマとの間の雑種でも見られる現象です。ネアンデルタール人と現生人類との間にそのような遺伝的障壁があったのかということも、ネアンデルタール人のゲノム解読完了後のネアンデルタール人と現代人とのゲノム比較により、判明するかもしれません。
興味深いのは、ネアンデルタール人は原始的だと考えてきたが、末期ネアンデルタール人は現生人類のようにビーズの如き装飾品を作り、複雑な埋葬を行なっていた、とのストリンガー博士の見解です。現生人類アフリカ単一起源説が優勢になって以降、ネアンデルタール人と現生人類との違い、さらにはネアンデルタール人にたいする現生人類の知的側面での優位を強調する見解が優勢になり、ストリンガー博士はそうした傾向を推し進めた中心的人物の一人だ、と私は考えてきただけに、近年のネアンデルタール人「復権」の傾向は今や確固たるものになったのではないか、と思います。
この報道では、ネアンデルタール人が絶滅してから長い時間が経過したために、現代人におけるネアンデルタール人由来のDNAの痕跡は、検出され得る水準以下に薄められたのではないか、と指摘されていますが、これはこの5~6年の私の見解と一致しており、今後の研究の進展により、この見解が証明されることを期待しています。ただ、ネアンデルタール人と現代人のゲノム比較でこれを証明するのはなかなか難しそうで、両者が共存していた時期の西アジアやヨーロッパの古人骨の核DNAを分析・比較するほうが、両者の交雑の直接の遺伝的証拠を検出しやすいのではないか、と思います。もっともこの場合、そもそも古人骨から核DNAを抽出すること自体がきわめて難しいうえに、試料汚染の可能性があるので、結局のところもっと難易度が高いかもしれません。
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