大河ドラマ『風と雲と虹と』第8回「京の姫みこ」

 純友の設けた宴席に招かれた将門は、純友が都・貴族の腐敗と無気力と貪欲さに憤っていることを知り、その心情に共感します。ところが、どうしたいのだと将門が純友に訊いたところ、国家を根こそぎひっくり返してやる、反逆だと純友は答え、将門は驚き、反逆など許さない、と興奮して純友に言い放ちます。将門を同志に引き入れることができなかった純友ですが、将門と別れた後も、将門のことが気になっていました。将門のような素朴で頑固な者が自分の志に同意して決起してくれなければ、自分の大望は成就しないのであり、自分の志は夢想にすぎない、と純友は気づきます。一方将門は、純友は毒虫であり、それに自分は侵されまい、と決意します。

 嵐の翌日、皇子の邸宅だったという荒れ屋敷を通りかかった将門は、荒れ屋敷が嵐により被害を受けているのを見て、同情して中に入りますが、そこで釘を踏んでしまい、負傷します。そこへ老女(貴子の乳母)が現れ、将門に足を洗うための水を用意します。将門は感謝し、老女は荒れ屋敷の中へと入っていきます。荒れ屋敷からの帰り際、将門は屋敷の中から女性が将門たちを見ていることに気づきます。

 将門が足を負傷したと聞いた貞盛は、将門を見舞います。官位を得るための準備、つまり各方面への進物は行なっているか、と貞盛に問われた将門は、故郷の家族たちが汗水流して得たものを賄賂に使うことは心情的に納得できない、と答えます。では、なんのために都に来たのだ、官位を得るためではないか、と貞盛に説得された将門は、不満気に貞盛の忠告に従うことにします。相変わらず、将門と貞盛の対照性が強調される描写になっており、それでもお互いに相手に友情を抱いていて、じつに面白い関係です。両者が後に対立し戦うことになる悲劇性を高める設定になっているなあ、と感心します。

 負傷したさいに水を提供してくれたお礼に、将門は進物を携えて再び荒れ屋敷を訪ねます。ところが、出てきた老女は、一旦は受け取りを拒否します。しかし、その進物が高価なものだと気づいた老女は、主人の意向を伺います、と言って部屋に戻ります。貧しい生活だけに、将門の進物は魅力的だったのでしょう。高貴な姫を安くは売りたくない、との心情も窺えて、なかなか面白い心理描写になっています。

 戻ってきた老女は、主人がお目にかかりたいと申しています、と将門に言い、将門は屋敷の中へと案内されますが、御簾に遮られているため、将門は貴子の姿を見ることができません。貴子は将門にお礼を言い、将門は御簾の向こうの貴子(この時点では、将門はまだ貴子という名前を知りませんが)に興味を持ちつつも、そこは純朴な性格のため、あっさりと引き下がります。こうした将門の振る舞いに、貴子と老女は好感を抱いたようです。

 それからしばらく経った、雪の降るある日、荒れ屋敷の前を通りかかった将門を、老女が呼び止めます。貴子の命が危ないという老女は、将門に助けを求め、将門は炭などを郎党に持ってこさせるとともに、医師(薬師)を呼びます。その甲斐もあって、貴子はなんとか命をとりとめ、将門は帰宅しようとしますが、せめて一晩だけでもいてほしい、と老女に懇願され、泊まることを決意するところで今回は終了です。

 今回は、前半が純友、後半が貴子を主とした構成になっています。純友の大望は今回かなり明らかになりましたが、現時点では妄想にすぎないこともはっきりとしました。今後、将門と純友の二人がどのように「反逆者」となっていくのか、興味を持たせる構成になっている、と思います。

 もう一方の準主役的位置にいる貴子は、貴子自身というよりも、貴子の置かれた境遇に焦点が当てられています。貴子自身はどちらかというと影が薄く、その乳母である老女が目立った感があります。老女は貧しいながらも誇り高く、品を保ちつつも、しっかりと男の器量を見定めよう、とのしたたかさも感じられます。老女を演じている奈良岡朋子氏の演技はさすがで、この作品の演技の質の高さには本当に感心します。貴子自身はやや影が薄かったとはいえ、演じている吉永小百合氏は、美しさと高貴さをなかなかよく表現できているように思います。吉永氏に熱狂的なファンが多いことにも納得できます。

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