野口実『伝説の将軍藤原秀郷』第2刷

 吉川弘文館より2007年に刊行されました。第1刷の刊行は2001年です。著者は武士見直し論者の一人で、武士の在り様、とくに起源をめぐる論争において、藤原秀郷はじゅうような位置を占めています。私も十数年前より武士見直し論に興味をもっており、それは本書を読んだ動機の一つになっているのですが、直接の動機は、最近見始めた『風と雲と虹と』の時代背景、さらには登場人物の一人である藤原秀郷をより詳しく知りたい、と思ったからです。そもそも、『風と雲と虹と』を見ようと思った根本的な動機は、露口茂氏が藤原秀郷(田原藤太)という重要な役を演じていたからでした。

 ただ、秀郷に関する史料は少なく、本書は、秀郷個人の伝記というよりも、秀郷をとりまくというか、秀郷が登場するにいたった時代背景、秀郷の子孫たちの動向、さらには田原(俵)藤太伝説の形成が主題になっています。これまで秀郷という人物の知識に乏しいこともあって、本書を読んで得るところは多かったのですが、改めて思ったのは、秀郷と平将門は似た人物であり、秀郷が将門のような運命をたどった可能性もけっして低くはなかっただろう、ということです。

 秀郷が配流処分とされたことは記録に残っており、『風と雲と虹と』の第1回
https://sicambre.seesaa.net/article/200909article_10.html
でも描かれていますが、『風と雲と虹と』で描かれたようにじっさいに秀郷が配流されたのかというと、その形跡はないそうです。将門が藤原忠平に仕えていたことは『風と雲と虹と』でも描かれていますが、本書では、将門にとっての忠平的存在が、源高明だったのではないか、と推測されています。高明が失脚した安和の変で、秀郷の子である千晴も失脚したことからも、高明と秀郷に主従関係が存在した可能性は高そうです。

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