『サイエンスZERO』「衝撃の発見!身長1メートル・小型人類の謎」

 昨日の記事で紹介した番組です。
https://sicambre.seesaa.net/article/200910article_17.html
馬場悠男氏の解説にわりと時間が割かれていたということもあるのでしょうが、全体的には大きな問題点はとくになく、リアン=ブア洞窟の周囲の風景も見ることができたなど、なかなかよかったと思います。ただ、35分という時間的制約があったので、フロレシエンシスをめぐる議論で取り上げられなかったものも少なくありませんでしたが、これは仕方のないところなのでしょう。とはいえ、病変現生人類説が取り上げられなかったことに不満を持つ人は少なくないかもしれません。しかし現時点では、病変現生人類説には無理があると考えるのが妥当でしょうから、大きな問題にはならないと思います。

 フロレシエンシスがどこから来たのかという問題について、馬場氏は海流を根拠に西(ジャワ島)からではなく北からの可能性が高いと指摘していましたが、番組のCGでも紹介されていたように、寒冷期に海面が低下すれば陸地面積が増えるわけで、ジャワ島というかスンダランドの、フローレス島から見て北西の地からやって来た可能性もあるのではないか、と思います。フロレシエンシスが、ジャワ島のエレクトスが島嶼化したのではなく、もっと小柄で原始的な人類から進化した可能性もある、との見解も紹介されていたのは、妥当なところだと思います。ただ、フロレシエンシスの出自については、同じくフローレス島で発見された88~80万年前頃の石器を取り上げてほしかったものです。

 フロレシエンシスは小さい脳にも関わらず知能が優れていたのではないか、との見解の証拠とされるのが「洗練された」石器なのですが、この番組でもそのような見解が提示されていました。ただ、フロレシエンシスの人骨と共伴した石器が、本当に後期アウストラロピテクス属や初期ホモ属が使用していたものよりも「優れていた」のか否か、またそもそも本当に石器なのか否かについては、今後も慎重な検証が必要だと思います。

この記事へのコメント

kuroneko
2009年10月18日 21:32
なんだか、安めぐみが感想より踏み込んだ意見言い過ぎ、おかげで何が事実で何が馬場さんの見解なのかぼけました。ドマニシも、あそこからインドネシアまで距離も年代もずいぶん離れていますよね。北側から海流に乗ってはわかるんだけど、石器はドマニシはごろんとした石器、フローレシエンシスは剥片が多い印象。おつむの出来や手の器用さによってちがうんだろうけど、フローレシエンシスの年代幅をちゃんと言うべきですね。あと、足がでかい、妙なプロポーションというのは、CGでよくわかりましたね。他にも数個体あるというので、まだまだ目が離せません。カットマーク、あるんですね、人骨とエモノがインシチューなら、間違いないんでしょうね、いやまてよ、後世(ホモサピエンス)の人類が、食った後、捨てたとか、ないか
2009年10月18日 23:56
ドマニシの石器はオルドヴァイ文化で、フロレシエンシスの石器はそれよりもずっと「進歩的」というのが一般的な見解のようなので、それ故に、リアン=ブア洞窟の更新世の人骨群が現生人類ではないにしても、石器群の一部もしくは大部分は現生人類の所産ではないか、との疑念はあって当然だと思います。

じっさい、出典は忘れましたが、そのような疑念を提示した研究者がいたと記憶しています。

フローレス島では更新世の現生人類人骨は発見されていなかったと思いますが、フロレシエンシスの存在した時代にはすでにオーストラリアまで現生人類は進出していましたから、更新世のフローレス島にも現生人類は進出しており、それがリアン=ブア洞窟の石器群だ、という可能性もあるとは思います。

ただ、リアン=ブア洞窟出土の石器を調査した研究者たちは、同じくフローレス島で発見された88~80万年前頃の石器と技術的連続性が認められる、としています。

そうすると、リアン=ブア洞窟の石器群はフロレシエンシスの所産で間違いなさそうではありますが。
kuroneko
2009年10月20日 22:38
いろんな疑問、疑念が大事なのではないだろうか、つまりさまざまな角度から検討する、吟味する。違った分野からの指摘が貴重だと思います。89-90万とされる石器の中には石器に見えないのもありました。こちらも研究の進展と論文の公表が待たれます。そういやあ、チンパンジーの「石器」の研究が、なにかに出てました。ご存知の情報があれば、教えてください。
2009年10月20日 23:59
チンパンジーの「石器」については、2年半以上前に取り上げたことがあります。
http://sicambre.at.webry.info/200702/article_15.html

後で全文を読もうと思ってすっかり忘れていたのですが、当時はかなり騒がれていた、と記憶しています。

ただ、チンパンジーの道具使用の例としては、それほど異例のことではない、と言えるかもしれません。

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