光成準治『関ヶ原前夜』(日本放送出版協会、2009年)

 NHKブックスの一冊として2009年6月に刊行されました。副題に「西軍大名たちの戦い」とあるように、敗者の側の動向が丁寧に描かれています。関ヶ原の戦いについての歴史認識となると、今でも司馬遼太郎氏の著作をはじめとする小説の影響が大きいと言えるでしょうが、それらの小説により浸透しているさまざまな俗説が、本書では一次史料に基づいて検証されています。関ヶ原の戦いを、「武断派」対「文治派」、「封建派」対「中央集権派」といった単純な対立に分類し、その予断のもとに解釈するのではなく、個々の大名の置かれた複雑な状況に基づいた行動を丁寧に検証していく本書の姿勢には見習うべきところが多々あり、本書は良書と言ってよいだろうと思います。

 具体的に取り上げられている大名は、毛利・上杉・宇喜多・島津です。それぞれの大名の意図・行動の動機が一次史料に基づいて検証されており、たいへん興味深いのですが、全体として強く感じるのは、関ヶ原の戦い前後の有力大名たちの意識が、戦国時代とあまり変わらないのではないか、ということです。私も含めて後世の人間は、豊臣政権→徳川政権という歴史的経緯を知っているだけに、こうした有力大名たちの意識・行動をつい時代錯誤と考えてしまうのですが、本書の指摘するように、豊臣政権に連立政権的性格が認められ、秀吉のカリスマが政権の求心力だったとすると、秀吉死後の有力大名たちの行動は、必ずしも時代錯誤とは言えないでしょう。

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