川尻秋生『戦争の日本史4 平将門の乱』第3刷

 吉川弘文館より2009年4月に刊行されました。第1刷の刊行は2007年4月です。この『戦争の日本史』全23巻は、企画編集委員の一人が小和田哲男氏で、その小和田氏執筆の巻(15巻『秀吉の天下統一戦争』)が最初期に刊行されたことで、これまで避けていたのですが、小和田氏以外の執筆の巻には期待できそうなので、今後は面白そうな巻、とくに古代史の巻を読んでいこう、と考えています。本書を最初に選んだのは、大河ドラマ『風と雲と虹と』を視聴するにあたって、
https://sicambre.seesaa.net/article/200909article_10.html
予備知識として現在までの研究成果を知っておきたい、と思ったからです。

 さて、本書の内容についてですが、私が不勉強なためによく知らなかったことは、当時の関東地方、とくに平将門の主要な活動範囲となった、関東南東部の、常陸・下総・武蔵の当時の地形が、現在の地形とは大きく異なるということです。当時は、関東南東部に香取の海という巨大な内海が存在し、常陸・下総・武蔵に占める水運の重要性は、大きかったものと思われます。平将門の乱、さらには武士勃興の背景として、これは見逃せないでしょう。平将門の乱が後世に大きな影響を及ぼしたことは以前より認識していましたが、貴族層にとってかなり後まで一種のトラウマだったことを、具体的に知ることができたのは収穫でした。

 本書を読んでの疑問点は、平将門の乱による坂東諸国の荒廃についてです。平将門の乱による坂東諸国の荒廃が、10世紀半ば以降の朝廷・中央貴族層の共通認識だったことは間違いないでしょうが、実態がどうだったのか、やや疑問もあります。朝廷の支配力の低下により、坂東諸国から官物を以前ほどには徴収することが難しくなったことを、荒廃と認識しているのではないかな、とも思います。もちろん、田の激減という報告もあるわけですが、それも、朝廷の支配力の低下と解釈できるのではないだろうか、との疑問も残ります。もっとも、当時の合戦で焼き討ちがよく行われていたらしいことを考えると、坂東諸国の荒廃を認めるほうが妥当なのかな、とも思います。

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