磯田道史『武士の家計簿』(新潮社、2003年)

 新潮新書の1冊として刊行されました。評判の高い本書ですが、刊行から6年後にはじめて読むことになりました。本書は、加賀藩のある藩士の家の家計簿を史料として、江戸時代後期から幕末を経て明治時代にまでいたる、その一家の変遷を詳細に描いています。あくまでもこの一家の事例ではありますが、当時の武士社会の在り様がうかがえる、たいへん興味深い記述になっており、評判の高さにも納得しました。

 家計簿からうかがえる当時の武家社会の様相が描かれているとはいっても、本書は視野の狭い考証にとどまっているわけではありません。よく、武士は「自ら特権を放棄した」として、その特異性が指摘されますが、本書は、そうした大きな問題についての解答も示唆されています。本書の細かな考証はもちろん賞賛されるべきですが、それは、大きな問題意識があって可能だったのではないか、と思われます。このような質の高い新書が今後次々と刊行されることを期待しています。

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