現代的行動の起源にかんする2つの研究

 戦争と利他的行動に関する研究(Bowles., 2009)と、現代的行動の起源に関する研究(Powell et al., 2009)、およびこの2つの研究を概観した記事(Mace., 2009)が公表されました。戦争と利他的行動に関する研究(Bowles., 2009)では、人間の社会的行動の発展の事例として重視されてきた戦争について、利他主義との関係から、説明されています。人間集団間の争いに関する理論モデルや、後期更新世・初期完新世の死因に関する考古学的証拠も使用されて得られた結論は、利他主義が集団間の争いにおいて有利に働いた可能性が高いので、利他主義が広まっていったのではないか、というものです。

 芸術や複雑な道具など、象徴的思考に基づいた現代的行動の起源に関する研究(Powell et al., 2009)では、西ユーラシアにおいてこうした現代的行動が45000年前以降の上部旧石器時代に始まるのにたいして、アフリカ南部ではそれ以前から見られることが指摘されています。この研究では、両者の時期的相違の要因として、人口密度が挙げられ、早期上部旧石器時代の始まった頃のヨーロッパと、現代的行動が最初に現れたときのサハラ砂漠以南のアフリカの人口密度が似ている、と指摘されています。

 人口密度は文化的複雑さの維持において決定的要因で、人口密度の上昇やそれにともなう移住の進展などにより、集団間の交流が進んで文化上の革新が効率よく広まって、現代的行動が出現した(現代的行動を示す考古学的証拠を現代において認識できるようになった)のではないか、とされています。またこの研究では、このような現代的行動の出現が人口密度の観点から説明できることから、現代的行動の出現と認識能力の向上とを結びつける必要はない、とも指摘されています。

 5万年前頃に起きた、神経系にかかわる遺伝子の突然変異による認識能力の向上の結果、現代的行動が一挙に出現した、とする「神経学仮説」に否定的な研究ですが、そうした研究は今後も増えてきそうです。おそらく今後、サハラ砂漠以南のアフリカでは、5万年前、さらには10万年前をさかのぼるような、現代的行動を示す考古学的証拠が増えていくことでしょう。


参考文献:
Bowles S.(2009): Did Warfare Among Ancestral Hunter-Gatherers Affect the Evolution of Human Social Behaviors? Science, 324, 5932, 1293-1298.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1168112

Mace R.(2009): On Becoming Modern. Science, 324, 5932, 1280-1281.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1175383

Powell A. et al.(2009): Late Pleistocene Demography and the Appearance of Modern Human Behavior. Science, 324, 5932, 1298-1301.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1170165

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