足の分析と島嶼化の研究から支持されるLB1新種説

 LB1の足についての研究(Jungers et al., 2009)と、絶滅した小型カバの分析から、じゅうらい言われてきた島嶼化の法則の見直しについて論じた研究(Weston, and Lister., 2009)が報道されました。この2つの研究はともに、LB1が病変の現生人類ではなく、新種の人類ホモ=フロレシエンシスだとする見解を支持しています。この2つの研究が掲載された今週号の『ネイチャー』の表紙は、LB1の骨格です。

 まずLB1の足の分析についてですが、この研究(Jungers et al., 2009)では、LB1の足が現代人と類似している一方で(派生的)、原始的特徴も有していることが指摘されています。派生的特徴としては、大きな母趾が現代人のように完全に内転していることなどが挙げられます。一方、原始的な特徴として指摘されているのは、足が下肢の残り部分に比して相対的に長く、一部の類人猿に近い、ということなどです。ホモ属としては原始的な特徴をもつことから、ホモ=フロレシエンシスの祖先はホモ=エレクトスではなく、もっと原始的な人類ではないか、と示唆されています。

 次に島嶼化の法則の見直しについてですが、フロレシエンシスを島嶼化の例とする見解は発見当初から指摘されていたものの、じゅうらいの島嶼化についての一般的な見解からすると、脳が小さすぎるのではないか、とも反論されていました。しかしこの研究(Weston, and Lister., 2009)では、かつてマダガスカル島にいて現在では絶滅した小型のカバが、体格の縮小割合から予想されていたよりも、ずっと小さい脳しか持っていなかったことが示されています。それゆえにこの研究では、島嶼化でじゅうらい予測されていたよりもずっと小さい脳へと進化することは可能であり、LB1の小さな脳も説明できるのではないか、とされています。

 この2つの研究により、LB1をはじめとするフローレス島の更新世の人骨群が、病変の現生人類ではなく人類の新種ホモ=フロレシエンシスだ、とする見解がますます有力になってきたように思われます。今後の議論になりそうなのは、フロレシエンシスがどの人類種からどのように進化したのか、ということになりそうです。フロレシエンシスはエレクトスから進化し、その原始的特徴は島嶼化の過程で現れた、と考えることも可能かもしれません。しかし、現在のところは、ホモ属的な特徴を備えつつも、エレクトスよりも原始的な特徴をも有していた人類から、フロレシエンシスは進化した、と考えるほうがよさそうです。その場合、現在ホモ(またはアウストラロピテクス)=ハビリスと分類されている人骨群の一部が、フロレシエンシスの祖先である可能性が高そうです。


参考文献:
Jungers WL. et al.(2009): The foot of Homo floresiensis. Nature, 459, 81-84.
http://dx.doi.org/10.1038/nature07989

Weston EM, and Lister AM.(2009): Insular dwarfism in hippos and a model for brain size reduction in Homo floresiensis. Nature, 459, 85-88.
http://dx.doi.org/10.1038/nature07922

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