文化の遺伝的制約

 文化の遺伝的制約についての研究(Fehérk et al., 2009)が公表されました。この研究では、文化の遺伝的起源を調べるため、他集団のさえずりを聞いたことがないキンカチョウからなる孤立したコロニーで、社会的学習の行われるさえずりの確立について調べられました。その結果、コロニーの創始者となった複数の個体は、成長中に手本となるさえずりを一度も聞かされなかったため、野生型と著しく異なるさえずりをしましたが、3~4世代のうちに、手本からの学習により獲得した歌は野生型のものに近づきました。

 これは、ニカラグアの聴覚障害児が自発的に発達させた手話に、人間の音声言語と文法的な類似点が認められる、という事例と類似しています。こうしたことや、文化の多様性には種に特有の側面があることなどから、この研究では、社会的な学習を通じて受け継がれるものだと考えられがちな、人間も含む動物に見られる文化の発生起源について、遺伝的なものである可能性が示唆されています。文化が根本的なところで遺伝的制約を受けていることは当然ですので、そのように言うこともできるでしょう。


参考文献:
Fehér O. et al.(2009): De novo establishment of wild-type song culture in the zebra finch. Nature, 459, 564-568.
http://dx.doi.org/10.1038/nature07994

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  • Fehér et al. (2009)

    Excerpt: 文化というものは後天的なものであると思われている。 つまり、社会の中で覚えるものであると普通は考えられている。 しかし、文化に対しては、遺伝的な要因による種に固有な制限がある。 例えば、人間の言語につ.. Weblog: Colorless Green Ideas racked: 2009-08-26 21:13