後藤みち子『戦国を生きた公家の妻たち』(2009年)

 歴史文化ライブラリーの1冊として、吉川弘文館より刊行されました。夫婦同姓・別姓の問題を歴史的に考えていく場合に、参考になりそうだと思い読んだのですが、その期待通りにさまざまな知見が得られたので、読んで正解だったと思います。前近代の日本社会は夫婦別姓であり、現代の日本社会における夫婦同姓(夫婦同氏)は西欧の物真似で、たかだか100年ていどの歴史しかない、との夫婦別姓容認論側によく見られる歴史認識の誤謬の根本的な要因は、氏(姓)と苗字(名字)との混同です。

 本書の、古代社会から中世社会への転換を一言でいうと、「氏から家へ」ということになる。これは「氏」を単位とする社会から「家」を単位とする社会へと移り変わることを意味している(P8)、との一節や、夫婦別氏にして夫婦同名字(P128)との簡潔な表現は、前近代における氏と苗字との違い、さらには現代日本社会の夫婦同姓の起源について、的確に知る手がかりとなるでしょう。百姓だけではなく、本書で指摘されているように、貴族層においても、戦国時代には夫婦同苗字でした。名字とは個々の家の「家の名」で、今日、姓・氏と呼ばれているものは、正確にはこの名字(家の名)にあたる(P128)ことから考えて、上記の夫婦別姓容認論側によく見られる歴史認識の誤りは明らかでしょう。

 本書では、摂関家を中心として、中世における婚姻・居住形態の変容や、それと関連して、戦国時代における貴族層の妻たちの役割といったことが詳細に論じられ、平安時代には夫婦別墓地だったのが、戦国時代になって夫婦同墓地になることが指摘されています。その他にも、江戸時代になって摂関家と天皇家との婚姻関係が再び密接になり、それが婚姻・居住形態も含む社会的変容につながっていることなど、興味深い指摘が多数なされており、本書は良書と言ってよいだろうと思います。

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