最初に埋葬を行なった旧人?

 今年の慶應義塾大学文学部入試の世界史科目において、ネアンデルタール人に関する問題が出題されたようです(第4問)。
http://www.yozemi.ac.jp/nyushi/sokuho/recent/keio/bun/index.html

 「人間と他の動物との差異は、言語や道具の使用とともに、他者を埋葬することに代表されるような宗教的行為を行うという点にある」との文章の「他者を埋葬すること」に下線がひかれ、「埋葬を最初に行ったとされる旧人を何というか」という設問になっています。予備校の解答例では、「ネアンデルタール人」とされています。

 未だに旧人という用語が使用されていることも含めて、これは大学入試の問題としては不適切なように思われます。ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)が埋葬を行なっていたのはほぼ確実だと思いますが、それがいつまでさかのぼるかとなると、そもそも古人骨の埋葬の認定がかなり難しいだけに、曖昧なところが多分にあります。

 一方、ホモ=サピエンス(現生人類)と分類される人骨の埋葬については、10万年前頃のレヴァントの事例が認められています(スフール洞窟とカフゼー洞窟)。しかも両洞窟においては、ネアンデルタール人の埋葬では未だに確実な事例が認められていない、明らかな副葬品が伴っていました。ネアンデルタール人の埋葬としてタブン洞窟の事例を認めれば、スフール・カフゼーよりも古くなるかもしれませんが、現時点では判断の難しいところだと思います。

 人類の埋葬について興味深いのは、5万年以上前までさかのぼるような確実な埋葬例が、サハラ砂漠以南のアフリカでは見つかっていないのにたいして、西アジアでは複数認められている、ということです。西アジアと比較すると、アフリカの更新世の遺跡の発掘は一部に偏っていて進んでいないので、たんにまだアフリカでは発見されていないだけだ、との解釈も可能でしょうが、種の水準で異なっていたかどうかはともかくとして、生物学的には明らかに異なっていたネアンデルタール人・現生人類の両集団が、その壁を越えて地域共通の文化を築いた、との解釈も魅力的です。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック