ネアンデルタール人のゲノム解読

 2006年に始まったネアンデルタール人のゲノム解読は現在も進行中ですが、そのドラフトゲノム解析が完了したことが、ナショナルジオグラフィックBBCなどで報道されました。まだ最初のドラフト版ですが、古人類学界で注目の高い、ネアンデルタール人と現生人類との交雑(混血)の問題についても、興味深い指摘があります。

 報道によると、現時点ではネアンデルタール人と現生人類との混血を示す証拠は見つかっていない、ということです。脳の大きさの調節に関わっているとされるマイクロセファリン遺伝子のハプログループDは、サハラ砂漠以南のアフリカの現代人には低頻度で見られ、非アフリカ地域では高頻度で見られるのですが、これは混血により現生人類がネアンデルタール人から継承したものではないか、とも言われていました(関連記事)。

 しかし、これまでのネアンデルタール人のゲノム解読の結果からは、ネアンデルタール人のマイクロセファリン遺伝子は、サハラ砂漠以南の現代アフリカ人の間でよく見られる型と同じものとのことです。今後、複数のネアンデルタール人個体のゲノム解読が進めば、あるいは異なる結論が得られるかもしれませんが、少なくとも現時点では、マイクロセファリン遺伝子からネアンデルタール人と現生人類との混血を証明するのは無理なようです。

 言語能力に関わるとされるFOXP2遺伝子については、ネアンデルタール人が現代人と同じ型を持っていたことが改めて指摘されており、試料汚染の可能性が高いとは述べられていません。研究チームは、ネアンデルタール人と現生人類との混血を示す証拠は見つかっていない、と述べていますが、ネアンデルタール人が現代人と同じ型のFOXP2遺伝子を持っていたとなると、現生人類とネアンデルタール人との間に混血があった可能性が高くなるのではなかろうか、と思います(関連記事)。ただ、この問題についてはさらなる検証が必要であり、現時点では、混血の証拠とするにはまだ不充分だろうと思います。この他に、ネアンデルタール人も乳糖不耐性だった、という結果も得られていますが、これは予想通りで、とくに意外な感はありません。

 研究チームのペーボ博士は、ネアンデルタール人の絶滅理由をゲノムのなかに見出せる、との考えには否定的ですが、今後研究が進めば、ネアンデルタール人と現生人類との間の遺伝的相違のなかに、ネアンデルタール人の絶滅理由の一つもしくは幾つかが見出せるかもしれません。またペーボ博士は、ネアンデルタール人のクローンについて、SF的な話で容易に実現しないだろう、との見通しを述べています。

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  • 人類史における交雑の可能性について

    Excerpt: ホモ=サピエンス(現生人類)と、ホモ=ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)やホモ=エレクトスなど他のホモ属との交雑の可能性について検証した研究(Wall et al., 2009)が公表されま.. Weblog: 雑記帳 racked: 2009-07-28 00:00