更新世人類の遺伝的多様性の低さ

 更新世人類の遺伝的多様性の低さについて論じた研究(Premo, and Hublin., 2009)が公表されました。まだ要約しか読んでいないのですが、この研究に疑問が残ります。しかし、重要な提言でもあるように思われます。半年後に全文を無料で読めるようになってから、精読して検討すべきなのでしょうが、とりあえず備忘録的に少しだけ雑感を述べることにします。

 この研究で注目すべきなのは、現生人類の遺伝的多様性の低さを、瓶首効果以外の文化的要因・人口構造で説明しようとしていることです。瓶首効果では、現生人類だけではなく、ネアンデルタール人や現生人類とネアンデルタール人の共通祖先まで遺伝的多様性が低かったことを説明できない、というわけです。

 ただ、現生人類だけではなくネアンデルタール人の遺伝的多様性の低さを指摘するのは、じっさいにネアンデルタール人のミトコンドリアDNAが分析されているので分かるにしても、現生人類・ネアンデルタール人の共通祖先、つまり中期更新世の人類にまでさかのぼって遺伝的多様性の低さが認められるのかというと、疑問です。

 この疑問は、私の勉強不足のためなのかもしれませんが、かりに中期更新世の人類も遺伝的多様性が低かったのだとしたら、当時の人類が気候変動などにより何度も人口を減らした、つまり瓶首効果を経験した、という解釈でもよさそうな気がします。こうした疑問は、全文を読んで他の研究も把握すれば、幼稚で的外れなものだったと了解できるのかもしれませんが、ともかく今は疑問を呈するにとどめておきます。


参考文献:
Premo LS, and Hublin JJ.(2009): Culture, population structure, and low genetic diversity in Pleistocene hominins. PNAS, 106, 1, 33-37.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.0809194105

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