2008年の古人類学界
あくまでも私の関心に基づいたものですが、今年の古人類学の動向で注目したのは、以下の2つになります。
(1)進むネアンデルタール人の「復権」。
(2)今年前半に相次いで提示された、フロレシエンシス新種説への疑問。
(1)ネアンデルタール人にもある種の象徴的思考能力があった可能性が高いと指摘されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/200802article_1.html
ネアンデルタール人の石器技術についても、ネアンデルタール人がかなり高水準の石器技術を用いていた可能性や、
https://sicambre.seesaa.net/article/200806article_26.html
そもそも、ネアンデルタール人の多くが用いていた石器が、上部旧石器時代以降の現生人類の用いていた石器よりも優れていたのか、疑問視する見解も提示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/200810article_5.html
ネアンデルタール人が有能な狩猟者との見解も提示され、
https://sicambre.seesaa.net/article/200809article_21.html
ネアンデルタール人による海産資源の利用から、ネアンデルタール人に現代人と似たような「計画性」が存在した可能性を指摘した見解も提示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/200809article_26.html
現生人類のアフリカ単一起源説が優勢となって以降、絶滅理由を説明しやすいということもあって、ネアンデルタール人の知的能力を低く評価する見解が主流となりましたが、近年は、フランチェスコ=デリコ博士をはじめとして、ネアンデルタール人の低評価を見直そう、という動きが強くなってきているように思われます。来年も、こうした傾向が強くなっていくのではないでしょうか。
(2)インドネシア領フローレス島のリアン=ブア洞窟で発見された更新世の人骨群をめぐっては、これらをホモ属の新種フロレシエンシス(正基準標本はLB1)とする見解と、病変の現生人類とする見解とが提示され、激論が展開されてきました。昨年の記事「2007年の古人類学界」
https://sicambre.seesaa.net/article/200712article_28.html
では、新種説でほぼ決まりだと述べたのですが、今年の前半に相次いで新種説への疑問が提示されたことには、おおいに困惑しました。
まず1月には、LB1は発達障害を伴う突然変異を有する現生人類との見解が提示され、
https://sicambre.seesaa.net/article/200801article_8.html
3月には、LB1はクレチン病との見解
https://sicambre.seesaa.net/article/200803article_31.html
と、パラオ諸島の完新世の現生人類とLB1との類似性を指摘した見解
https://sicambre.seesaa.net/article/200803article_54.html
とが提示されました。
クレチン病説については、ただちに致命的な欠点が指摘されましたが、
https://sicambre.seesaa.net/article/200803article_36.html
この研究で注目されるのは、小頭症説など、それ以前の病変現生人類説を否定したことで、さらにクレチン病説にも致命的な欠点があることが指摘されたのですから、病変現生人類説はかなり苦しくなったと言えるでしょう。それでも、新種説否定の見解としては、パラオ諸島の完新世の現生人類とLB1との類似性を指摘した見解が依然として注目されたのですが、この見解にも問題のあることが指摘されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/200809article_1.html
一方、新種説を肯定する研究は続々と公表されており、解剖学的見地からは、LB1と初期ホモ属あるいはアウストラロピテクス属との類似性が指摘されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/200803article_68.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200804article_20.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200806article_18.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200812article_19.html
こうしたことから、新種説肯定派の優位は間違いのないところで、病変現生人類説派はまだ粘るでしょうが、新種説肯定派の優位を崩すのはおそらく無理でしょう。
古人類学には不確定要素が多いので、毎年のように重要な研究が公表され、飽きることがありません。来年も、どのような研究が公表されるのか、今から楽しみです。
(1)進むネアンデルタール人の「復権」。
(2)今年前半に相次いで提示された、フロレシエンシス新種説への疑問。
(1)ネアンデルタール人にもある種の象徴的思考能力があった可能性が高いと指摘されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/200802article_1.html
ネアンデルタール人の石器技術についても、ネアンデルタール人がかなり高水準の石器技術を用いていた可能性や、
https://sicambre.seesaa.net/article/200806article_26.html
そもそも、ネアンデルタール人の多くが用いていた石器が、上部旧石器時代以降の現生人類の用いていた石器よりも優れていたのか、疑問視する見解も提示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/200810article_5.html
ネアンデルタール人が有能な狩猟者との見解も提示され、
https://sicambre.seesaa.net/article/200809article_21.html
ネアンデルタール人による海産資源の利用から、ネアンデルタール人に現代人と似たような「計画性」が存在した可能性を指摘した見解も提示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/200809article_26.html
現生人類のアフリカ単一起源説が優勢となって以降、絶滅理由を説明しやすいということもあって、ネアンデルタール人の知的能力を低く評価する見解が主流となりましたが、近年は、フランチェスコ=デリコ博士をはじめとして、ネアンデルタール人の低評価を見直そう、という動きが強くなってきているように思われます。来年も、こうした傾向が強くなっていくのではないでしょうか。
(2)インドネシア領フローレス島のリアン=ブア洞窟で発見された更新世の人骨群をめぐっては、これらをホモ属の新種フロレシエンシス(正基準標本はLB1)とする見解と、病変の現生人類とする見解とが提示され、激論が展開されてきました。昨年の記事「2007年の古人類学界」
https://sicambre.seesaa.net/article/200712article_28.html
では、新種説でほぼ決まりだと述べたのですが、今年の前半に相次いで新種説への疑問が提示されたことには、おおいに困惑しました。
まず1月には、LB1は発達障害を伴う突然変異を有する現生人類との見解が提示され、
https://sicambre.seesaa.net/article/200801article_8.html
3月には、LB1はクレチン病との見解
https://sicambre.seesaa.net/article/200803article_31.html
と、パラオ諸島の完新世の現生人類とLB1との類似性を指摘した見解
https://sicambre.seesaa.net/article/200803article_54.html
とが提示されました。
クレチン病説については、ただちに致命的な欠点が指摘されましたが、
https://sicambre.seesaa.net/article/200803article_36.html
この研究で注目されるのは、小頭症説など、それ以前の病変現生人類説を否定したことで、さらにクレチン病説にも致命的な欠点があることが指摘されたのですから、病変現生人類説はかなり苦しくなったと言えるでしょう。それでも、新種説否定の見解としては、パラオ諸島の完新世の現生人類とLB1との類似性を指摘した見解が依然として注目されたのですが、この見解にも問題のあることが指摘されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/200809article_1.html
一方、新種説を肯定する研究は続々と公表されており、解剖学的見地からは、LB1と初期ホモ属あるいはアウストラロピテクス属との類似性が指摘されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/200803article_68.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200804article_20.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200806article_18.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200812article_19.html
こうしたことから、新種説肯定派の優位は間違いのないところで、病変現生人類説派はまだ粘るでしょうが、新種説肯定派の優位を崩すのはおそらく無理でしょう。
古人類学には不確定要素が多いので、毎年のように重要な研究が公表され、飽きることがありません。来年も、どのような研究が公表されるのか、今から楽しみです。
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