アフリカにおける現代的行動の開始の要因

 アフリカにおける現代的行動の開始の要因を論じた研究(Jacobs et al., 2008)が報道されました。こうした現代的行動の始まりが現生人類拡散の要因だとの見解もありますが、一方で、気候変動をその要因とする見解もあります。この研究では、アフリカ南部におけるスティル=ベイ文化とハウイソンズ=プールト文化の9つの遺跡の石器が、光ルミネッセンス年代測定法によって分析されました。9つの遺跡のある場所の環境は一様ではなく、さまざまな気候・生態の地域に分布しています。

 分析の結果、スティル=ベイ文化とハウイソンズ=プールト文化は8~6万年前の間に存在し、前者は5000年ほど、後者はそれよりも短い期間しか存在しなかったことが明らかになりました。また、両文化は同時代に存在したのではなく、両者の存在期間は7000年ほど離れていることも判明しました。

 両文化は、中期石器時代における現代的行動(革新的文化)の例として、現生人類の出アフリカとも関連づけられることがありますが、さまざまな環境での両文化の短期間の消長から、両文化の誕生は既知のどの気候変化にも連動していない、と考えられます。

 両文化の年代は、遺伝学から推定されている、アフリカにおける現生人類集団の拡大と、出アフリカの時期とに一致しています。こうしたことからこの研究では、革新的文化の誕生・拡大は、環境的要因だけでは説明され得ない、と主張されています。私は、文化的蓄積がある水準を超えたときに、こうした文化的革新が始まり、拡大していくのではないか、と考えています。もちろん、そのさいに環境的要因も無視できないだろう、とは思います。


参考文献:
Jacobs Z. et al.(2008): Ages for the Middle Stone Age of Southern Africa: Implications for Human Behavior and Dispersal. Science, 322, 5902, 733-735.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1162219

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