遠山美都男「天武天皇殯宮の‘事’」

 「日本史のことば」を特集した『日本歴史』第704号(2007年1月号)の中の一論考です。『日本書紀』の天武天皇の葬送儀礼の記事に見える「諸王の事」・「宮内の事」・「左右大舎人の事」・「大政官の事」などの「事」とは何を意味するのか、ということが論じられています。これまでは、「こと」・「ことがら」とみなされてきましたが、「つかえる」という意味ではなかろうか、ということがこの論考では主張されていて、そうすると、たとえば「大政官の事」とは「大政官の仕へまつれる状」と解釈されます。

 これは、この時点での中央官庁がなお、天武という特定の人格にたいする奉仕を核に成り立つ組織の域を脱していなかったことを意味し、この時期の中央官庁が天武の強烈なカリスマ性によって比較的短期間のうちに一挙に形成された、というじゅうらいの説明を補強するものとなろう、と論じられていて、なかなか面白い論考だと思います。

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