現生人類の出アフリカの経路

 現生人類の出アフリカの経路について論じた研究(Osborne et al., 2008)が報道されました。現在のところ、アフリカ以外における確実な現生人類骨の最古のものは、レヴァントで出土しています。こうしたことから、初期現生人類の最初の出アフリカの経路としては、ナイル川沿いを北上したという説が有力視されています。しかしこの研究では、初期現生人類の出アフリカの経路としては、宇宙からのレーダー画像により確認された、かつて中央サハラから地中海へと北上した河川沿いのほうが有力なのではないか、と指摘されています。

 この中央サハラから地中海へと北上した河川は、初期現生人類がレヴァントへと進出した、海洋同位体ステージ5e(130000~117000年前)の時期に存在したことが確認されました。この時期は現在と同程度かそれ以上に気温が高く、現在サハラ砂漠のある地域も湿潤でした。さらに、この時期の石器文化を比較すると、レヴァントとナイル川流域とが明らかに異なるのにたいして、チャドやスーダンと地中海沿岸のリビアとは類似しており、それはさらにレヴァントとも共通する可能性が指摘されています。

 こうしたことから、この研究では、初期現生人類の出アフリカの経路として、中央サハラから地中海へと北上した河川沿いが有力視されています。もっとも、初期現生人類の出アフリカの経路としては、アフリカ東部からアラビア半島南岸を経て南・東南アジアへと向かう、南方海岸沿いのものも考えられます。おそらく今後、10万年以上前の確実な現生人類の化石が、南・東南アジアでも発見される可能性は高いだろう、と私は予測しています。


参考文献:
Osborne AH. et al.(2008): A humid corridor across the Sahara for the migration of early modern humans out of Africa 120,000 years ago. PNAS, 105, 43, 16444-16447.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.0804472105

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