有能な狩猟者としてのネアンデルタール人

 現生人類アフリカ単一起源説が優勢となって以降、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)と現生人類(ホモ=サピエンス)との違いを強調する見解が目立つようになりましたが、近年になって、そうした傾向は行き過ぎており、ネアンデルタール人を過小評価していたのではないかとして、ネアンデルタール人見直し論とも言うべき動きが強まっているように思われます。そうした状況のなか、ネアンデルタール人見直し論の動きについてまとめた見解が報道されました。

 この報道で紹介された研究の一つ(Mussia, and Villa.,2008)によると、イタリア北部のアーゾロ遺跡の分析から、他の多数の西ヨーロッパの遺跡からも推測されている、大型獣を狩っていった有能な狩猟者としてのネアンデルタール人像が改めて確認された、とのことです。

 アーゾロ遺跡では、ケナガマンモス(Mammuthus primigenius)の死骸がムステリアン(ムスティエ文化)の石器と共伴していました。イタリアにおけるムステリアンの担い手は、ほぼ間違いなくネアンデルタール人だと考えられます。この研究では、後の時代の槍の先端や現代の実験結果との比較から、ムステリアンの尖頭器は槍先として利用されており、ケナガマンモスのような大型獣を狩っていったのではないか、と推測されています。

 ただこの報道では、ネアンデルタール人は有能な狩猟者だったものの、現生人類ほど知的に優れていたわけでも、効率的でもなかったのではないか、と示唆されています。確かに、このように考えると、ネアンデルタール人が絶滅して現生人類が現在も生き残っている理由を説明しやすいとは思いますし、ネアンデルタール人と現生人類の知的能力になんらかの違いがあった可能性は高いでしょう。

 しかし、シャテルペロニアン(シャテルペロン文化)の例などからすると、ネアンデルタール人集団の生活様式が現生人類集団のそれほど効率的ではなかったとしても、その要因は、潜在的な(生得的な)知的資質の違いというよりは、むしろ社会的(後天的)な蓄積の違いによるものではないか、というのが私の考えです。


参考文献:
Mussia M, and Villa P.(2008): Single carcass of Mammuthus primigenius with lithic artifacts in the Upper Pleistocene of northern Italy. Journal of Archaeological Science, 35, 9, 2606-2613.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jas.2008.04.014

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