ネアンデルタール人の成長速度、および脳の大きさと生活史との関係

 脳の大きさから、ネアンデルタール人と現代人との成長速度を比較し、脳の大きさと生活史との関係について論じた研究(Ponce de León et al.,2008)が報道されました。この研究では、ネアンデルタール人骨のうち、クリミアのメズマイスカヤ洞窟出土の新生児と、シリアのデデリエ洞窟出土の幼児と、1930年代に発見された成人女性がコンピュータ上で仮想復元され、現代人と比較されました。

 その結果、ネアンデルタール人の新生児の脳の大きさは現代人の新生児とほぼ同じであるものの、幼少期の脳の成長は現代人よりもネアンデルタール人のほうが速いと推測されました。また、ネアンデルタール人女性の産道は現代人女性よりやや広いものの、ネアンデルタール人の新生児の頭蓋骨は現代人の新生児よりも頑丈でやや長いために、出産時の困難さはネアンデルタール人も現代人もほぼ同じだった、と考えられます。

 これまで、現代人よりもネアンデルタール人のほうが成長が速かったとの見解がたびたび主張されてきており、その場合、現代人よりもネアンデルタール人のほうが寿命が短かった、と考えられてきました。この研究で示された結果も、そうした見解を裏づけるものと考えられるかもしれませんが、この研究では、平均するとネアンデルタール人の成人時の脳は現代人よりも大きく、両者の脳の成長の持続期間は同じだ、と指摘されています。

 またこの研究では、ネアンデルタール人の子供は大きな脳を急速に成長させるので、その母親にはより大きなエネルギー・栄養が必要とされることから、ネアンデルタール人女性はより成熟した状態での出産が要求され、初出産時の年齢は高かったのではないか、と推測されています。そのため、ネアンデルタール人の生活史は、最近のホモ=サピエンスと同じくらいの速度か、やや遅かった可能性もある、とされています。さらにこの研究では、脳と生活史の進化の関係の深さについても指摘され、今後の人類進化史の研究への展望が提示されています。

 現生人類アフリカ単一起源説が優勢となって以降、ネアンデルタール人と現生人類との違いを強調する見解が目立つようになりましたが、近年になって、ネアンデルタール人見直し論とも言うべき動きが強まっているように思われます。この研究も、そうしたネアンデルタール人見直しという大きな動きの一環として考えることができるのではないでしょうか。


参考文献:
Ponce de León. et al.(2008): Neanderthal brain size at birth provides insights into the evolution of human life history. PNAS, 105, 37, 13764-13768.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.0803917105

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