更新世のサフル大陸における「現代的行動」の問題

 更新世におけるサフル大陸(寒冷な時期には海水面が低下し、オーストラリアとパプアニューギニアとタスマニアは陸続きとなり、サフル大陸と呼ばれています)への人類の移住と、「現代的行動」との関係について論じた研究(Habgood, and Franklin.,2008)が公表されました。「現代的行動」の考古学的指標としては、ビーズのような装飾品・埋葬・壁画のような美術・長距離交易などが挙げられます。

 これらは現生人類の拡大とともに「一括して(パッケージ)」導入されたものと主張され、ヨーロッパにおける中部旧石器~上部旧石器への移行はその典型とされてきましたが(ヨーロッパでは、現生人類の出現と「現代的行動」の考古学的指標の出現はほぼ同時期)、南アジアとオーストラリアへも、現生人類は現代的行動の「一括」を携えて植民してきた、と主張されています。

 この研究では、このような主張が妥当かどうか、更新世後期のサフル大陸における考古学的証拠に基づいて検証されています。その結果、サフル大陸における諸々の「現代的行動」は、「一括して」出現したのではなく、異なる年代・場所に個別に現れたことが判明しました。

 この研究では、現代的行動の「一括」は現生人類のアフリカからサフル大陸への移住の途中で失われたのではなく、じょじょに出現したものである、と解釈されています。さらにこの研究では、「現代的行動」の「一括品」の出現において、しだいに増加する人口の役割が認められる一方で、「一括」の個々の構成要素が空間・時間的に広範囲に離れた遺跡で見られるので、人口増が唯一の説明というわけでもなさそうだ、とされています。


 以上、この研究についてざっと見てきましたが、「現代的行動」を可能とする潜在的資質を人類が獲得したのは、おそらく20万年以上前のことであり、(現生)人類が個々の「現代的行動」をとるか否かは、人口も含めてその時点の社会的状況に左右されたのでしょう。

 ヨーロッパではたまたまそれらが「一括して」出現したように見えるとも解釈できるのですが、ヨーロッパで近代的考古学が発展したために、ヨーロッパの考古学的遺物の在り様が「現代的行動」の指標と解釈されてきた側面も否定できず、「現代的行動」やその「一括」といった問題設定も、多分にヨーロッパ中心的と言うべきなのかもしれません。


参考文献:
Habgood PJ, and Franklin NR.(2008): The revolution that didn't arrive: A review of Pleistocene Sahul. Journal of Human Evolution, 55, 2, 187-222.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jhevol.2007.11.006

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