パラオ諸島の人骨とフロレシエンシス

 パラオ諸島で発見された2890~940年前の小柄な人骨群には、フローレス島で発見された更新世の人骨群と似た特徴が認められる、との研究(Berger et al.,2008)を今年3月13日分の記事で取り上げましたが、これを否定する研究(Fitzpatrick et al.,2008)が報道されました。

 この新たな研究(Fitzpatrick et al.,2008)によると、以前の研究(Berger et al.,2008)で指摘された、ウチェリウングス洞窟とオメドケル洞窟出土の2900~1400年前頃の小柄な人類は、分析された標本があまりにも小さく断片的であり、身長が過小評価されており、パラオ諸島も含んだ太平洋地域の現生人類集団と比較すると標準的な大きさだ、とも指摘されています。

 そのためこの研究(Fitzpatrick et al.,2008)では、小柄だとされたパラオ諸島の人骨群は、島嶼化または孤立した移住集団の例ではない、とされます。また考古学・言語学・歴史学的研究からは、多くの文化的連続性が確認されており、同じ集団がパラオ群島に居住していたのではないか、とも指摘されています。

 こうしたことからこの研究(Fitzpatrick et al.,2008)では、以前の研究(Berger et al.,2008)における、フローレス島で発見された更新世の人骨群は現生人類の島嶼化の例ではないか、との主張を否定しています。なおこの研究(Fitzpatrick et al.,2008)では、以前の研究(Berger et al.,2008)で指摘された、フローレス島で発見された更新世の人骨群とも共通するところのある、パラオ諸島における2900~1400年前頃の古人骨群の「原始的特徴」について、パラオ諸島も含む太平洋地域の標本と比較すると現生人類の範囲内に収まる、とされています。

 フローレス島で発見された更新世の人骨群を、(病変の)現生人類とする見解を否定するもので、その意味では、新種ホモ=フロレシエンシスとする見解を間接的に支持する研究とも言えるでしょう。ただ、以前の論文(Berger et al.,2008)の筆頭著者バーガー博士は、我々もこの新たな研究も指摘しているように、太平洋の集団は世界的な基準からは小柄だと指摘し、自分たちの主張が見逃されている、と述べています。


参考文献:
Berger LR, Churchill SE, De Klerk B, Quinn RL (2008) Small-Bodied Humans from Palau, Micronesia. PLoS ONE 3(3): e1780.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0001780
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Fitzpatrick SM, Nelson GC, Clark G (2008) Small Scattered Fragments Do Not a Dwarf Make: Biological and Archaeological Data Indicate that Prehistoric Inhabitants of Palau Were Normal Sized. PLoS ONE 3(8): e3015.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0003015

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