タスマニアにおける大型獣絶滅の要因

 タスマニアにおける大型獣絶滅の要因についての研究(Turney et al., 2008)が報道されました。更新世末期におけるアメリカ大陸などでの大型獣絶滅の要因については、気候変動説と人類による過剰狩猟説が提示されており、論争が続いています。この研究では、タスマニアでの大型獣絶滅の要因は、気候変動ではなく人類による狩猟ではないか、と推測されています。

 じゅうらいの研究では、オーストラリア大陸では46000年前までに大型獣の90%が絶滅しており、その直後に人類のオーストラリア大陸への最初の移住の考古学的証拠が見られ、更新世にはオーストラリア大陸と陸続きになったこともあるタスマニアでは、43000~40000年前頃の最初の人類の到着の前に、大型獣の絶滅が起きたと考えられてきました。

 この研究では、タスマニアの大型獣化石や関連した堆積物の年代が直接測定され、タスマニアの大型獣のいくつかの種は少なくとも41000年前まで生存していたことが判明しました。またこの研究では、長期的な植生記録によると、タスマニアとオーストラリア大陸が陸続きだった43000~37000年前の間に、重要な気候・環境的変化が起きなかったことも指摘されています。

 こうしたことからこの研究では、更新世末期のタスマニアにおける大型獣絶滅の要因は、気候・環境変動ではなく、おもに人類の狩猟によるものだ、と結論づけられています。ただ、タスマニアにおける大型獣絶滅に人類の活動も影響していることは否定できないにしても、その役割がどれだけのものだったかという点については、今後も検証が必要だろうと思います。

 更新世末期の大型獣絶滅の要因の追求は、政治的論争になることもあります。更新世末期に大型獣が絶滅した地域としては、アメリカ大陸やオーストラリア大陸が有名です。両地域ともに、いわゆる白人が近世以降に入植し、先住民を迫害したという歴史があるだけに、先住民の側からは、先住民の祖先の過剰狩猟による大型獣絶滅説は、先住民を貶めて白人の自尊心を保つためなのではないか、との疑念もあるようです(Mann.,2007,P288-289)。その意味でこの研究も、微妙な政治的論争を惹き起こす可能性があるかもしれません。なお、アメリカ大陸における大型獣絶滅については、人為的なものではなく環境変動かもっと微妙なメカニズムによるものだ、との見解が近年になって提示されています(Guthrie., 2006)。


参考文献:
Guthrie DR.(2006): New carbon dates link climatic change with human colonization and Pleistocene extinctions. Nature, 441, 207-209.
http://dx.doi.org/10.1038/nature04604
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Mann CC.著(2007)、布施由紀子訳『1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見』(日本放送出版協会、原書の刊行は2005年)
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Turney CSM. et al.(2008): Late-surviving megafauna in Tasmania, Australia, implicate human involvement in their extinction. PNAS, 105, 34, 12150-12153.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.0801360105

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