ネアンデルタール人のミトコンドリアDNAの完全な配列
クロアチアのヴィンディヤ洞窟出土の、38000年前頃のネアンデルタール人骨のミトコンドリアDNAの、完全な配列を特定した研究(Green et al., 2008)が報道されました。その結果、これまでの研究通り、ネアンデルタール人のミトコンドリアDNAの塩基配列は、現代人のそれの変異幅から大きく外れていることが確認されました。この研究では、ネアンデルタール人と現代人とのミトコンドリアDNAの分岐は、66万±14万年前頃と推定されています。
この研究によると、ネアンデルタール人のミトコンドリアDNAのタンパク質生成の部分を他の霊長類と比較すると、ネアンデルタール人は急速な進化をしたか小集団で生活していた、ということを示唆する遺伝的差異が見つかりました。この論文の筆頭著者であるグリーン博士は、ネアンデルタール人は採集狩猟民として生活しており、大規模な集団での生活には適していないという理由で、後者の説明のほうが妥当だろう、としています。
この研究で注目されるのは、ミトコンドリアのなかで細胞のエネルギー生成に関わるCOX2遺伝子のDNA配列において、現代人と比較した場合、ネアンデルタール人には4つのアミノ酸置換をもたらすような変異が認められる、ということです。これをネアンデルタール人の絶滅と現生人類の繁栄との違いの理由の一つに結びつけたくなるところですが、COX2遺伝子における現代人とネアンデルタール人との違いが、機能的な相違をもたらしているのか否か現時点では定かではないとして、COX2遺伝子において現生人類の系統に正淘汰をもたらすような変異があったと考える見解にたいして、この研究は慎重な姿勢を見せています。
たいへん重要な研究ですが、ネアンデルタール人の完全なミトコンドリアDNA配列は、まだ1人分しか確定していないわけですから、今後、他のネアンデルタール人骨でも、ミトコンドリアDNAの完全な配列の特定が進められることが期待されます。そうすると、ネアンデルタール人の間の遺伝的多様性についてもさらに詳しく分かり、ネアンデルタール人の絶滅理由の解明にも貢献できるのではないか、と期待されます。
参考文献:
Green RE. et al.(2008): A Complete Neandertal Mitochondrial Genome Sequence Determined by High-Throughput Sequencing. Cell, 134, 416-426.
http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2008.06.021
この研究によると、ネアンデルタール人のミトコンドリアDNAのタンパク質生成の部分を他の霊長類と比較すると、ネアンデルタール人は急速な進化をしたか小集団で生活していた、ということを示唆する遺伝的差異が見つかりました。この論文の筆頭著者であるグリーン博士は、ネアンデルタール人は採集狩猟民として生活しており、大規模な集団での生活には適していないという理由で、後者の説明のほうが妥当だろう、としています。
この研究で注目されるのは、ミトコンドリアのなかで細胞のエネルギー生成に関わるCOX2遺伝子のDNA配列において、現代人と比較した場合、ネアンデルタール人には4つのアミノ酸置換をもたらすような変異が認められる、ということです。これをネアンデルタール人の絶滅と現生人類の繁栄との違いの理由の一つに結びつけたくなるところですが、COX2遺伝子における現代人とネアンデルタール人との違いが、機能的な相違をもたらしているのか否か現時点では定かではないとして、COX2遺伝子において現生人類の系統に正淘汰をもたらすような変異があったと考える見解にたいして、この研究は慎重な姿勢を見せています。
たいへん重要な研究ですが、ネアンデルタール人の完全なミトコンドリアDNA配列は、まだ1人分しか確定していないわけですから、今後、他のネアンデルタール人骨でも、ミトコンドリアDNAの完全な配列の特定が進められることが期待されます。そうすると、ネアンデルタール人の間の遺伝的多様性についてもさらに詳しく分かり、ネアンデルタール人の絶滅理由の解明にも貢献できるのではないか、と期待されます。
参考文献:
Green RE. et al.(2008): A Complete Neandertal Mitochondrial Genome Sequence Determined by High-Throughput Sequencing. Cell, 134, 416-426.
http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2008.06.021
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