クロマニヨン人骨のミトコンドリアDNA分析

 28000年前頃のクロマニヨン人の骨からミトコンドリアDNAを抽出してその配列を分析し、それが現代人によって汚染されておらず、現代ヨーロッパで一般的なものであることを示すとともに、ネアンデルタール人のミトコンドリアDNAの配列とは大きく異なっていることを指摘した研究(Caramelli et al., 2008)が報道されました。

 イタリア南部のパグリッチ洞窟出土のクロマニヨン人骨からは、以前にもミトコンドリアDNAが抽出され、現代人の範囲内におさまるとの分析結果が得られたのですが、試料汚染の可能性も指摘されていました。この研究では、パグリッチ洞窟出土のクロマニヨン人骨とともに、汚染源となり得る、その人骨に触れた現代人のミトコンドリアDNAの配列も分類されました。

 その結果、パグリッチ洞窟出土のクロマニヨン人のミトコンドリアDNA配列は、現代のヨーロッパで一般的な系統に分類されるものの、汚染源となり得る現代人の配列とは異なっていることが判明しました。したがって、このクロマニヨン人のミトコンドリアDNA配列が、現代人のそれに汚染されている可能性はおそらくないでしょう。また、このクロマニヨン人の配列はネアンデルタール人の配列とは大きく異なっていた、との結果も得られました。

 論文の執筆者の一人であるガイド=バルブジャーニ博士は、ミトコンドリアDNAの比較だけでは、クロマニヨン人とネアンデルタール人の交雑の可能性を除外できない、として慎重な姿勢を見せています。しかしこの研究では、ネアンデルタール人とクロマニヨン人が共存していたと考えられる頃のヨーロッパのほとんどすべての古人骨は、解剖学的にはネアンデルタール人かクロマニヨン人に分類されるとし、ミトコンドリアDNAの分析結果ともあわせて、両者の交雑には否定的な論調となっているように思われます。もっとも、ネアンデルタール人研究の世界的権威であるエリック=トリンカウス博士ならば、こうした見解にたいして、ネアンデルタール人とクロマニヨン人の交雑を示すような人骨は少なからずある、と反論しそうではあります。


参考文献:
Caramelli D, Milani L, Vai S, Modi A, Pecchioli E, et al. (2008) A 28,000 Years Old Cro-Magnon mtDNA Sequence Differs from All Potentially Contaminating Modern Sequences. PLoS ONE 3(7): e2700.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0002700

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