カレイの頭骨の非対称性の起源

 カレイ目魚類の眼が片方に寄っていることはよく知られていますが、これは頭骨が左右非対称であることが原因で、成長に伴う頭骨の変形によりもたらされます。カレイ目魚類も、仔魚の段階では他の多くの脊椎動物と同じく眼は左右対称なのですが、頭骨の変形により一方の眼が頭頂を越えて移動し、反対側にあるもう一方の眼の隣まで来ます。

 こうした形態の起源は不明だったのですが、始新世の魚類“Amphistium”の化石の再検討と、もっとも原始的なカレイ目魚類となる新属の報告とにより、カレイの非対称性の起源を追求した研究(Friedman., 2008)が報道されました。この研究については、生物学専攻の方(魚類ではなく昆虫が研究対象とのことですが)によるブログ記事が、簡潔にまとめられていて参考になります。

 この研究によると、現代のカレイ目魚類と比較した場合、始新世のカレイ目魚類の一方の眼はもう一方の眼に中途半端に寄った形態をしており、カレイ目魚類の特殊化した形態の進化が漸進的だったことを裏づけている、とのことです。漸進的な進化の実例として、なかなか興味深い研究です。


参考文献:
Friedman M.(2008): The evolutionary origin of flatfish asymmetry. Nature, 454, 209-212.
http://dx.doi.org/10.1038/nature07108

この記事へのコメント

がんのすけ
2008年07月13日 08:57
この報道から、個体発生は系統発生を繰り返す、という言葉を思い出しました。このカレイの化石が成熟した個体のものであれば、今あるカレイが進化の終わりに近い形だとして、そのネオテニーという位置づけになるのだろうか、などとも考えました。
漸進的な進化という言葉は初見です(科学に縁遠い暮らしですし)。ミッシングリンクを埋めるような発見はあまり聞きませんから、このネイチャーへの発表はけっこうすごいことなのでしょうね。
2008年07月13日 14:55
漸進的な進化という概念は進化学においてずっと主流だったのですが、典型的な中間型の化石があまり発見されていないことから、長期間の形態の安定と短期間での急速な進化を想定する断続平衡説が、1970年代になって主張されました。

私も進化学全般について詳細に把握しているわけではないのですが、鯨類などで中間型の化石が見つかっているようで、じょじょに中間型の化石も増えているようです。

このカレイの祖先の化石も、そうした中間型の貴重な実例の一つになったと言えそうです。

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