ニュージーランドへの人類の移住年代
ニュージーランドへの人類の移住時期をめぐって議論が展開されてきましたが、人類がニュージーランドに持ち込んだナンヨウネズミ(Rattus exulans)の骨やネズミが齧った種子の年代を改めて測定したところ、後期移住説が支持される結果になった、との研究(Wilmshurst et al.,2008)が報道されました。
ニュージーランドのナンヨウネズミは人類が持ち込みましたから、人類がニュージーランドにはじめて移住した時期を推測する重要な手がかりとなります。以前、ナンヨウネズミの骨の年代が紀元前200年頃と発表され、考古学や古生態学などの近年の研究成果(人類の痕跡は紀元後1280年頃以降)と乖離していたので、議論になりました。
この研究では、紀元前200年頃と測定されたナンヨウネズミの骨も含む博物館で保管されている標本と、それらと同じ層からのものも含む新たなネズミの骨が、改めて放射性炭素年代測定法で検査されました。紀元前200年頃との測定結果が得られた研究では、試料汚染の可能性が指摘されましたので、この研究では汚染除去のための改良された技術が用いられました。その結果、ナンヨウネズミの骨の年代は最古のものでも586年前(非較正)であり、暦年代で紀元後1280年頃よりも古いものはありませんでした。
ナンヨウネズミが齧った痕のある種子も、同様に年代が測定されました。以前の著者たちの研究では、ネズミに齧られた種子は780年前よりも新しいものばかりで、無傷のものの年代は3895年前までさかのぼりました。改良された技術が用いられての今回の測定では、ナンヨウネズミが齧った痕のある最古の種子は702年前までさかのぼり、鳥の砕いたものの中には、2512年前までさかのぼるものもありました。ネズミのニュージーランドへの初上陸の年代は、火山灰によりさらに絞り込まれ、暦年代で紀元後1314年以前のことになります。
これらの新たな年代測定結果は、考古学・古生態学などの近年の研究成果とも整合的です。そのため、人類によってポリネシア東部からニュージーランドにナンヨウネズミがはじめて持ち込まれた(人類がはじめてニュージーランドに移住した)のは紀元後1280年頃で、その後ナンヨウネズミは急速に拡大したのではないか、とこの研究では推測されています。
ただ、ナンヨウネズミが齧った痕のある種子の年代は、ナンヨウネズミの骨の年代よりも古くなっています。ニュージーランドへの人類の移住時期の研究にあたっては、後者よりも前者のほうが信頼できる方法ではないだろうか、とこの研究では示唆されています。
またこの研究では、東ポリネシアへの人類の移住により、生態系が大きく変わったことも指摘されています。おそらくは過剰狩猟のため、広範囲で陸生動物が絶滅し、海洋大型動物が衰退していきました。また、人類による火の使用のため、低地の森林が破壊されました。この研究で取り上げられた、人類が持ち込んだ雑食性のナンヨウネズミも、こうした変化に影響を与えています。
参考文献:
Wilmshurst JM. et al.(2008): Dating the late prehistoric dispersal of Polynesians to New Zealand using the commensal Pacific rat. PNAS, 105, 22, 7676-7680.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.0801507105
ニュージーランドのナンヨウネズミは人類が持ち込みましたから、人類がニュージーランドにはじめて移住した時期を推測する重要な手がかりとなります。以前、ナンヨウネズミの骨の年代が紀元前200年頃と発表され、考古学や古生態学などの近年の研究成果(人類の痕跡は紀元後1280年頃以降)と乖離していたので、議論になりました。
この研究では、紀元前200年頃と測定されたナンヨウネズミの骨も含む博物館で保管されている標本と、それらと同じ層からのものも含む新たなネズミの骨が、改めて放射性炭素年代測定法で検査されました。紀元前200年頃との測定結果が得られた研究では、試料汚染の可能性が指摘されましたので、この研究では汚染除去のための改良された技術が用いられました。その結果、ナンヨウネズミの骨の年代は最古のものでも586年前(非較正)であり、暦年代で紀元後1280年頃よりも古いものはありませんでした。
ナンヨウネズミが齧った痕のある種子も、同様に年代が測定されました。以前の著者たちの研究では、ネズミに齧られた種子は780年前よりも新しいものばかりで、無傷のものの年代は3895年前までさかのぼりました。改良された技術が用いられての今回の測定では、ナンヨウネズミが齧った痕のある最古の種子は702年前までさかのぼり、鳥の砕いたものの中には、2512年前までさかのぼるものもありました。ネズミのニュージーランドへの初上陸の年代は、火山灰によりさらに絞り込まれ、暦年代で紀元後1314年以前のことになります。
これらの新たな年代測定結果は、考古学・古生態学などの近年の研究成果とも整合的です。そのため、人類によってポリネシア東部からニュージーランドにナンヨウネズミがはじめて持ち込まれた(人類がはじめてニュージーランドに移住した)のは紀元後1280年頃で、その後ナンヨウネズミは急速に拡大したのではないか、とこの研究では推測されています。
ただ、ナンヨウネズミが齧った痕のある種子の年代は、ナンヨウネズミの骨の年代よりも古くなっています。ニュージーランドへの人類の移住時期の研究にあたっては、後者よりも前者のほうが信頼できる方法ではないだろうか、とこの研究では示唆されています。
またこの研究では、東ポリネシアへの人類の移住により、生態系が大きく変わったことも指摘されています。おそらくは過剰狩猟のため、広範囲で陸生動物が絶滅し、海洋大型動物が衰退していきました。また、人類による火の使用のため、低地の森林が破壊されました。この研究で取り上げられた、人類が持ち込んだ雑食性のナンヨウネズミも、こうした変化に影響を与えています。
参考文献:
Wilmshurst JM. et al.(2008): Dating the late prehistoric dispersal of Polynesians to New Zealand using the commensal Pacific rat. PNAS, 105, 22, 7676-7680.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.0801507105
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