デデリエ洞窟における新たな発見
今年5月8~10日にかけて開催された、「中東およびその隣接地域の下部・中部旧石器時代」というシンポジウムにおける報告の要約です(P24)。デデリエ洞窟はシリア北部に位置し、1993年と1997年に保存状態の良好なネアンデルタール人の幼児人骨が発見されたことで有名です。この人骨はタブンB型のレヴァントムステリアンと共伴していました。デデリエ洞窟の発掘は日本とシリアの合同調査隊が進めており、報告者のなかに日本人研究者の名前が見えます(赤澤威・西秋良宏の両氏)。
デデリエ洞窟では21世紀になっても発掘が続けられており、洞窟の入口近くで、下部~中部旧石器時代にかけての石器群が発見されています。最下層は、下部旧石器時代末期のヤブルディアンと分類され、その上層ではレヴァントムステリアンの二つの型の石器群が発見されました。この二つの型の石器群はタブンB型と異なっており、タブンDおよびC型のほうに似ています(レヴァントムステリアンの区分については、今年3月21日分の記事を参照してください)。
上記のレヴァントムステリアンの区分は、その名称からも分かるようにタブン洞窟の石器群の分類が基準になっており、タブン洞窟では古いほう(下層)から順にD→C→B型と変遷していくのですが、デデリエ洞窟での新たな発見により、その変遷がレヴァント北端でも起きた可能性が示唆されます。またこの新たな発見は、レヴァントにおける下部~中部旧石器時代への移行と、ネアンデルタール人と早期現生人類の地理的・年代的分布の解明にも役立つと思われます。
上記のブログ記事でも紹介したように、タブンB層型はネアンデルタール人骨と、タブンC層型は早期現生人類人骨と共伴していますが、タブンD層型には共伴人骨がなく、その担い手が確定していません。ただ、タブンD層型はレヴァントにおける上部旧石器文化へと直接つながっていくので、現生人類の所産ではないかと推測されています。
デデリエ洞窟での新たな発見は、レヴァントにおけるネアンデルタール人と現生人類との複雑に見える関係を解き明かす重要な手がかりになるのではないか、と期待されますが、今後の発掘状況によっては、下部旧石器時代末期以降のレヴァントにおける人類進化・文化的変遷の謎が、かえって深まることになるかもしれません。ともかく、今後の研究の進展が大いに期待されます。
参考文献:
Akazawa T, Nishiaki Y, Kanjo Y, and Muhesen S.(2008): New Discoveries of the Lower-Middle Palaeolithic Sequence at the Dederiyeh Cave, Northwest Syria. The Lower and Middle Palaeolithic in the Middle East and Neighbouring Regions.
デデリエ洞窟では21世紀になっても発掘が続けられており、洞窟の入口近くで、下部~中部旧石器時代にかけての石器群が発見されています。最下層は、下部旧石器時代末期のヤブルディアンと分類され、その上層ではレヴァントムステリアンの二つの型の石器群が発見されました。この二つの型の石器群はタブンB型と異なっており、タブンDおよびC型のほうに似ています(レヴァントムステリアンの区分については、今年3月21日分の記事を参照してください)。
上記のレヴァントムステリアンの区分は、その名称からも分かるようにタブン洞窟の石器群の分類が基準になっており、タブン洞窟では古いほう(下層)から順にD→C→B型と変遷していくのですが、デデリエ洞窟での新たな発見により、その変遷がレヴァント北端でも起きた可能性が示唆されます。またこの新たな発見は、レヴァントにおける下部~中部旧石器時代への移行と、ネアンデルタール人と早期現生人類の地理的・年代的分布の解明にも役立つと思われます。
上記のブログ記事でも紹介したように、タブンB層型はネアンデルタール人骨と、タブンC層型は早期現生人類人骨と共伴していますが、タブンD層型には共伴人骨がなく、その担い手が確定していません。ただ、タブンD層型はレヴァントにおける上部旧石器文化へと直接つながっていくので、現生人類の所産ではないかと推測されています。
デデリエ洞窟での新たな発見は、レヴァントにおけるネアンデルタール人と現生人類との複雑に見える関係を解き明かす重要な手がかりになるのではないか、と期待されますが、今後の発掘状況によっては、下部旧石器時代末期以降のレヴァントにおける人類進化・文化的変遷の謎が、かえって深まることになるかもしれません。ともかく、今後の研究の進展が大いに期待されます。
参考文献:
Akazawa T, Nishiaki Y, Kanjo Y, and Muhesen S.(2008): New Discoveries of the Lower-Middle Palaeolithic Sequence at the Dederiyeh Cave, Northwest Syria. The Lower and Middle Palaeolithic in the Middle East and Neighbouring Regions.
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