レヴァントにおける中部~上部旧石器時代への移行

 今年5月8~10日にかけて、「中東およびその隣接地域の下部・中部旧石器時代」というシンポジウムが開催されました。中東の政治情勢のため、個人・チーム単位では中東全域を総括した研究を行ないにくいという事情があるので、有意義なシンポジウムだと思います。各報告の要約はPDFファイルで読めますので、面白そうなものを今後取り上げていくつもりですが、今回はレヴァントにおける中部~上部旧石器時代への変化ついて指摘した報告(P40)を取り上げます。

 この報告では、領域・資源に限界のあるレヴァントでは、中部~上部旧石器時代への移行は漸進的ではなく迅速であり、人類集団の置換を伴うものだった可能性が高い、とされます。それ故に、この迅速な変化がレヴァントにおける既存の考古学的研究方法により検出され得るのか、という問題も提起されています。

 レヴァントの先史時代の研究者は、レヴァントにおける中部~上部旧石器時代への移行を漸進的と考え、ネアンデルタール人と関連した後期ムステリアン(ムスティエ文化、中部旧石器時代の代表的文化)に上部旧石器文化の起源を求める傾向があったのですが、この報告ではそうした見解が批判されています。

 では、レヴァントの上部旧石器文化はどこに由来するのかというと、ホモ=サピエンス(現生人類)と関連したアフリカ北東部の中期石器文化(アフリカ北部なら中部旧石器文化だと思うのですが、この要約では中期石器文化となっています)が想定されています。そこは、後期更新世の大旱魃の間、現生人類にとって避難所だったと考えられます。

 ただ、今年5月14日分の記事で述べたように、レヴァントの上部旧石器の起源についてはアフリカ北部からの影響も認められますが、レヴァントムステリアンのタブンD層型からの連続性も無視できないでしょう。レヴァント南部のムステリアンの担い手は確定していませんが、現生人類である可能性が高いように思います。


参考文献:
Shea JJ.(2008): THE ARCHAEOLOGY OF AN ILLUSION: THE MIDDLE-UPPER PALEOLITHIC TRANSITION IN THE LEVANT. The Lower and Middle Palaeolithic in the Middle East and Neighbouring Regions.

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