霊長目の運動時の消費エネルギーから見た霊長目の生態と起源

 霊長目が垂直に登るときと水平に歩くときの消費エネルギーを比較し、霊長目の生態と起源について考察した研究(Hanna et al.,2008)が公表されました。樹木などを垂直に登る能力があり、樹上で生活する種もいるという点で、霊長目は哺乳動物の中で例外的です。

 この研究では、体重がそれぞれ異なる5種の霊長目を対象に、上方向への垂直移動時と水平歩行時の酸素消費量が測定されました。その結果、霊長目の体の大きさが消費エネルギーに関係する仕組みが、垂直移動と歩行では異なることが分かりました。

 垂直移動時には消費エネルギー量は体格に比例し、体格の大小により新陳代謝の効率は変わりません。しかし平行移動時には、大きな体格の霊長目のエネルギー消費は、小さな体格の霊長目よりも効率的でした。つまり、大型動物ほど地上にいることが理にかなっており、小型動物ほど、歩こうが登ろうが代謝的に大差がないということです。

 またこの研究結果は、最古の霊長目が小型であったとする学説と整合的と言えそうです。小さな初期霊長目は、消費エネルギーを増加させることなく、樹上生活という新たな生態的地位を獲得できたかもしれません。初期人類は現代人と比較すると小柄とはいえ、霊長目としては大型な部類に入りますから、二足歩行に適した形態が選択されたのには、やはり合理的な理由があったと言えそうです。


参考文献:
Hanna JB, Schmitt D, and Griffin TM.(2008): The Energetic Cost of Climbing in Primates. Science, 320, 5878, 898.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1155504

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