過去80万年間の気候の記録

 南極大陸の氷床コアに閉じ込められていた気泡の分析により、80~65万年前の二酸化炭素濃度の詳細な記録を示した研究(Lüthi et al.,2008)と、過去80万年にわたる長期的なメタン濃度の変動を示した研究(Loulergue et al.,2008)が『ネイチャー』2008年5月15日号に掲載されました。直接人類進化を扱った研究ではありませんが、古気候の復元は古人類学にとって重要なので、注目されます。


 まずは過去の二酸化炭素濃度についてですが、すでに過去65万年間の大気中の二酸化炭素濃度の記録が得られています。この研究では、大気中の二酸化炭素濃度の記録が80万年前まで得られました。大気中の二酸化炭素濃度は南極の気温と強い相関がありますが、75~65万年前の間は大幅に低下していたことが分かりました(海洋同位体ステージ16の3000年間は180 ppmv以下)。これはおそらく、海洋炭素貯蔵量が増大したことを反映しています。この分析により、80万年前~産業革命前までの大気中の二酸化炭素濃度の変動幅は、172~300 ppmvと訂正されます(現在の濃度は380ppmv)。


 次にメタン濃度についてです。過去65万年間のメタン濃度は、氷期の約 350 ppbvから間氷期の約800 ppbvの間で変化していましたが、現在のメタン濃度は1770 ppbvと報告されています。この研究では、メタン濃度の記録が80万年前まで得られました。その結果、大気中メタン濃度の長期変動は、ほぼ40万年前までは約10万年の氷期・間氷期サイクルが支配的で、より近年の4回の気候サイクルでは、歳差成分の寄与が増大していることが分かりました。

 これらの分析結果から示唆されるのは、おそらくモンスーンシステムの変化と熱帯収束帯の位置変化の影響を受けた、熱帯におけるメタンの生成源と吸収源(湿地、大気による酸化)の強さの変化が大気中メタンの収支を制御し、北半球の氷床の後退により氷河周辺の湿地が広がって、より多くのメタン放出が可能となったために、退氷期には新たな供給が加わった、ということです。この記録から見つかったメタン濃度の千年単位での変化は、南極大陸の同位体極大事象と関連しており、これは過去8回の氷期サイクルにおいて、千年単位での気温変動が広範囲にわたって起きていたことを示しています。


参考文献:
Lüthi D. et al.(2008): High-resolution carbon dioxide concentration record 650,000–800,000 years before present. Nature, 453, 379-382.
http://dx.doi.org/10.1038/nature06949

Loulergue L. et al.(2008): Orbital and millennial-scale features of atmospheric CH4 over the past 800,000 years. Nature, 453, 383-386.
http://dx.doi.org/10.1038/nature06950

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