モンテ=ヴェルデ遺跡で14000年前頃の人類の痕跡が確認される

 アメリカ大陸にいつ人類が進出したのかという問題をめぐっては、激論が展開されてきました。長らく、クローヴィス文化の担い手がアメリカ大陸最古の人類だったとの見解が通説(クローヴィス最古説)となっていましたが、クローヴィス以前とされる遺跡も主張されるようになり、そのなかでも、チリのモンテ=ヴェルデ遺跡はクローヴィス以前の最有力候補とされ、注目されてきました。しかし、クローヴィス最古説派からはモンテ=ヴェルデ遺跡の年代に疑問が呈されており、議論が続けられてきました。そうしたなか、モンテ=ヴェルデ遺跡で人類が海藻を利用しており、その年代は14000年前頃と推定される、との研究(Dillehay et al.,2008)が報道されました。

 モンテ=ヴェルデ遺跡で発見された海藻の種子9つを、放射性炭素年代測定法で調べたところ、暦年代で14220~13980年前という結果が得られました。海藻の断片が数多く発見され、ナイフ型石器の刃の部分に海藻が付着していたことから、海藻は食されていたと考えられます。また海藻は、他の植物と混ぜて噛み砕かれ、塊にして医療目的で用いていたのではないか、とも考えられています。

 当時海岸から約15km離れていたと考えられているモンテ=ヴェルデ遺跡で、海藻が頻繁に利用されていたと推測されることから、アメリカ大陸は沿岸の移動により一気に南端まで植民されたとする、沿岸移動仮説が支持されるのではないか、と考えられます。ただ、この論文の筆頭著者であるディルヘイ博士によると、植民の速度はじゅうらいの沿岸移動仮説で想定されていたよりも遅かったかもしれない、とのことです。モンテ=ヴェルデ遺跡では内陸部の資源の利用も多数確認されており、早期アメリカ人は内陸部と海岸部を熟知していたのではないか、と推測されます。そうすると、早期アメリカ人は海岸沿いを一気に南下したのではなく、内陸部と海岸部との間を移動しつつ南下していったと考えられます。

 今年4月5日分の記事で紹介した研究(Gilbert et al.,2008)では、クローヴィス以前のアメリカ大陸での人類の痕跡が確認され、この研究でも、クローヴィス以前の人類の痕跡として注目されてきたモンテ=ヴェルデ遺跡の年代が、クローヴィス以前にさかのぼる可能性が高いことが確認されました。クローヴィス最古説はもはやほとんど破綻したと言ってもよい状況です。アメリカ大陸への人類の移住がいつまでさかのぼるのか、今後の研究の進展が期待されます。


参考文献:
Dillehay TD. et al.(2008): Monte Verde: Seaweed, Food, Medicine, and the Peopling of South America. Science, 320, 5877, 784-786.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1156533

Gilbert MTP. et al.(2008): DNA from Pre-Clovis Human Coprolites in Oregon, North America. Science, 320, 5877, 786-789.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1154116
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