梁文道氏のチベット論と平野聡氏のチベット問題についての解説
「香港リベラル派知識人のチベット論」と題したブログの記事で、梁文道氏のチベット論について知りました。同氏のチベット論には日本語訳もあり、私はその日本語訳を読んだのですが、たいへん興味深い内容で、色々と教えられることも考えさせられることもありました。私は漢語を解しませんので、断言はできないのですが、おそらく原文そのものもさることながら、日本語訳も素晴らしいのでしょう。
チベット問題について勉強不足の私には、梁文道氏の見解の妥当性を的確に判断できるだけの見識はとてもありませんので、素朴な感想といった水準にとどまるのですが、上記の記事における「幅広い知見と民族和解に向けた真摯な態度に満ちた出色のもの」との評価は、おおむね当を得ているのではないでしょうか。おそらく、チベット問題についての、中国、とくに漢民族と、欧米の国民との間の意識の乖離の一因は、今まさに近代社会の最中にある中国と、ポストモダン社会に突入した欧米との違いにあるだろうと思うのですが、この問題については今後も検証が必要です。
チベット問題については、日本人がそれを我事としてとらえ、自らを省みる契機とする分には問題ないのですが、日本も欧米も民族問題で(現代の視点・価値観からは)間違ったことをしてきたではないか、などといって相対化を図るのは、不毛と言うべきだと思います。これは、日本の侵略とそれによる被害を指摘されて、中国も大躍進や文革などで大惨事を招来してしまったではないか、などと相対化を図る日本人と同じ論理だと言うべきでしょう。
平野聡氏のチベット問題についての解説「チベット騒乱と中国」は、NHKの『視点・論点』での発言を文章化したもののようです。「NHKが承認した場合を除いて、NHKトップページ以外へのリンクはお断りいたします」とのことですので、お読みになりたい場合は、NHKのトップページから「平野聡」で検索なさってください。平野氏の著書や朝日新聞に掲載された論考を読んだことのある私にとっては、とくに目新しい話ではなかったのですが、平野氏のチベット論・近現代中国論が簡潔に紹介されており、平野氏の見解を手っ取り早く知るには便利と言えるでしょう。
ただ、平野氏のチベット論にたいしては痛烈な批判がなされているので、注意が必要だとは思います。ダイチン=グルン(いわゆる清朝)によるチベットの支配について、それがどれだけ実効的だったのか疑問だったので、これまでこのブログでは「支配」と表記してきたのですが、やはり学界の主流的見解は、実体的な支配・被支配関係、あるいは領域支配には否定的とのことで、検証を行わないままダイチン=グルンによる「統合」の存在を所与のものとして扱う平野氏の見解は、現代中国の民族支配にたいする大きな正当性を付与する危険性がある、と指摘されています。また、ダイチン=グルンの複雑な性格、チベットとの複雑な関係について、私のような素人が一般向けの本を何冊か読んだだけで理解するのは難しいことも、改めて実感しました。
チベット問題について勉強不足の私には、梁文道氏の見解の妥当性を的確に判断できるだけの見識はとてもありませんので、素朴な感想といった水準にとどまるのですが、上記の記事における「幅広い知見と民族和解に向けた真摯な態度に満ちた出色のもの」との評価は、おおむね当を得ているのではないでしょうか。おそらく、チベット問題についての、中国、とくに漢民族と、欧米の国民との間の意識の乖離の一因は、今まさに近代社会の最中にある中国と、ポストモダン社会に突入した欧米との違いにあるだろうと思うのですが、この問題については今後も検証が必要です。
チベット問題については、日本人がそれを我事としてとらえ、自らを省みる契機とする分には問題ないのですが、日本も欧米も民族問題で(現代の視点・価値観からは)間違ったことをしてきたではないか、などといって相対化を図るのは、不毛と言うべきだと思います。これは、日本の侵略とそれによる被害を指摘されて、中国も大躍進や文革などで大惨事を招来してしまったではないか、などと相対化を図る日本人と同じ論理だと言うべきでしょう。
平野聡氏のチベット問題についての解説「チベット騒乱と中国」は、NHKの『視点・論点』での発言を文章化したもののようです。「NHKが承認した場合を除いて、NHKトップページ以外へのリンクはお断りいたします」とのことですので、お読みになりたい場合は、NHKのトップページから「平野聡」で検索なさってください。平野氏の著書や朝日新聞に掲載された論考を読んだことのある私にとっては、とくに目新しい話ではなかったのですが、平野氏のチベット論・近現代中国論が簡潔に紹介されており、平野氏の見解を手っ取り早く知るには便利と言えるでしょう。
ただ、平野氏のチベット論にたいしては痛烈な批判がなされているので、注意が必要だとは思います。ダイチン=グルン(いわゆる清朝)によるチベットの支配について、それがどれだけ実効的だったのか疑問だったので、これまでこのブログでは「支配」と表記してきたのですが、やはり学界の主流的見解は、実体的な支配・被支配関係、あるいは領域支配には否定的とのことで、検証を行わないままダイチン=グルンによる「統合」の存在を所与のものとして扱う平野氏の見解は、現代中国の民族支配にたいする大きな正当性を付与する危険性がある、と指摘されています。また、ダイチン=グルンの複雑な性格、チベットとの複雑な関係について、私のような素人が一般向けの本を何冊か読んだだけで理解するのは難しいことも、改めて実感しました。
この記事へのコメント
私もチベット問題で平野氏の見解をたびたび取り上げており、もちろんその見識には敬服すべきところが多いのですが、平野氏のチベット論に重大な問題が潜んでいることは否定できないようで、広範に情報を収集する必要性を痛感しました。
この場合は特に、現実に進行している問題と歴史上の問題は区別して考えるべきでしょうね。
それだけに、自制しようとする理性が必要になってくるでしょう。
平野氏への批判も含めて読ませていただきました。
平野氏の問題点もわかるよい機会になりました。
ただ、この点はおかしいと思うのですが、つまり、平野氏は、チベットに対して継続的に実体的支配があったと言ってはいません。彼の二つの著作でも。
氏の関心は、それまで水と油であった騎馬民族と漢民族が現になぜ200年以上にもわたって平和に共存できたのか、を探ることにあります。この点にうまい説明を与えた著作を僕は知りません。
中共政権のような一方的なナショナリズムにも傾かず、単にお飾りの関係があったにすぎなかったというような議論にも傾かず、中国史上最大の版図を成り立たしめた要因を探る著作であり、だからこそ評価を受けたんだろうと思います。
種々の批判はあるでしょうが、むしろ、歴史の学問的議論が現在の政治に結びついてしまう領域に果敢に切り込んでいかれた点が評価されるべきだと私は思います。
平野氏の著書に関しては、ご指摘のような点に評価されるべきところがあるのは確かだと思いますが、専門家からは色々と大きな問題が見えてくるのでしょう。
専門家ではない私にとっては、現代中国の領域、およびおもに漢族による現代中国のナショナリズムの由来を探っているという点において、平野氏の著書はたいへん興味深いものでした。