NHKスペシャル『病の起源 第1集 睡眠時無呼吸症~石器が生んだ病~』

 現代人の病の起源を人類進化史に求めるシリーズ(全6回)の第1回です。やや疑問に思ったのは、160万年前頃のホモ=エレクトスが20人ほどの集団で狩をしていたとの説明です。人類がそのような本格的な狩猟を160万年前頃に行なっていたのかとなると、まだ確証はないのが現状で、この頃の人類の動物性食資源の獲得については、むしろ死肉漁り説のほうが優勢のように思われます。

 中期更新世後期のユーラシアでは狩猟が主流だったとされていて、じっさいレヴァントにおいては、70万年前頃に上部旧石器時代の(おそらくは)現生人類とほぼ変わらないような動物解体技術が用いられていたとされていますが、140万年前頃の遺跡では、70万年前頃の遺跡とは異なり、肉を削ぎ落としたことを示唆する打撃痕が認められなかった、との指摘もあります(Rabinovich et al.,2008、関連記事)。

 これはあくまでもレヴァントの事例ですが、番組で想定されたような狩猟が行なわれていた可能性は、遅くとも70万年前頃にはさかのぼるものの、160万年前頃となると、かなり怪しいと言えそうです。もっとも、人類の狩猟について私も最近の研究動向をよく把握しているとは言えませんので、あるいはこの番組での説明にはかなりの根拠があるのかもしれませんが。


参考文献:
Rabinovich R. et al.(2008): Systematic butchering of fallow deer (Dama) at the early middle Pleistocene Acheulian site of Gesher Benot Ya‘aqov (Israel). Journal of Human Evolution, 54, 1, 134-149. 、関連記事
http://dx.doi.org/10.1016/j.jhevol.2007.07.007

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