ネアンデルタール人と現生人類との分岐年代

 ネアンデルタール人の祖先と現生人類の祖先とが分岐したのは、43~31万年前頃だった、との研究(Weaver et al.,2008)が『米国科学アカデミー紀要』に掲載され、報道されました。まだ要約しか読んでいませんが、半年後には全文を読めるようになるので、そのときにまた改めて全文を読もうと思います。

 この研究では、世界の30の集団からなる2524の現生人類標本と、20のネアンデルタール人標本を用いて、37の標準的頭蓋測定が行なわれました。その結果、ネアンデルタール人の系統と現生人類の系統が分岐したのは、およそ311000年前または435000年前と推定されました。これは、現生人類やネアンデルタール人のDNAの最近の解析結果とよく似ています。

 両集団の分岐は、おそらくDNAにおける無作為な変化である遺伝的浮動として始まったのであり、この時間はそれぞれ異なる形態の集団を出現させるにはじゅうぶんな時間だった、とされます。両者は分岐した後、それぞれ環境に適応して特徴的な形態を進化させたのであり、現生人類の系統の分岐当初の形態は、現代人とは大きく異なっていたと思われます。

 この論文の著者の一人で、現生人類のアフリカ単一起源説の代表的論者であるクリストファー=ストリンガー博士は、ネアンデルタール人と現生人類にとって祖先にあたる、広範囲に存在した人類種ホモ=ハイデルベルゲンシスという概念を支持する、と述べました。また、ネアンデルタール人の特徴はちょうど50万年前頃にハイデルベルゲンシスから現れ始め、ハイデルベルゲンシスは筋肉質で背が高く(たいてい180cmかそれ以上まで成長しました)、比較的大きな脳を有していた、とストリンガー博士は述べました。

 この研究は、ネアンデルタール人の系統と現生人類との系統の分岐年代や分岐の仕組みを、大規模な頭蓋分析から説明したということで、なかなか興味深いものです。今後、ネアンデルタール人と現生人類が具体的にどのように進化し、その形態的特徴を獲得していったのか、さらなる研究の進展が期待されます。


参考文献:
Weaver TD, Roseman CC, and Stringer CB.(2008): Close correspondence between quantitative- and molecular-genetic divergence times for Neandertals and modern humans. PNAS, 105, 12, 4645-4649.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.0709079105

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