失敗の歴史

 対米開戦を決断した戦前の日本や、衛生管理の問題点・粉飾決算を隠蔽しようとした企業など、後世・外部からはどう見ても失敗・露見しそうなことをやってしまう集団は、無能な人間が集まっているかのように思われるかもしれませんが、企業・国家を問わず、巨大な集団となるとさまざまなしがらみがあり、後世・外部からは信じられないような失敗をしてしまうことは珍しくないのだと思います(小集団・個人でもそうした失敗は珍しくありませんが)。

 おそらく、そうした失敗をしてしまった集団のほとんどは、無能な人間が集まっているのではなく、有能な人間が多くいながらも、仔細に検討していけば一応は納得できるような理由で選択を誤ったということなのだと思います。後世からは「正解」となる選択が容易に判断できるように見えるのかもしれませんが(あくまでそう「見える」だけであって、本当に「正解」なのか、保証はないのですが・・・)、当時にあってはそうした選択が正解かどうか、容易に判断できるものではなく、多くの人々にとって説得力のある選択ではなかったということもあるのでしょう。

 また、破局が見えているのに失敗を続けるのは、どうしようもなく無能だったり狂信的だったりという場合もあるかもしれませんが、その集団や集団内の個人の体面も含めて、さまざまなしがらみがある場合も多く、巨大な集団でも小さな集団でも個人でも、貧すれば鈍すというか、努力してあがいてみても、悪循環に陥ってどうしようもなくなることは珍しくありません。

 大日本帝国にしても、政治家・官僚・軍部などが、どうしようもなく無能だったわけでも狂っていたわけでもなく、優秀な人も少なからずいたのでしょうが、強権をもって利害調整を行なう組織・首脳が不在なまま、日露戦争などの過去の栄光という物語に、全面的ではないにせよ依拠しつつ、各集団がそれぞれ自己の利益を強く主張して行動していたら、国家全体がとうとう引き返せないところまで行ってしまい、破局を迎えたというわけです。こうした失敗は大日本帝国に特有なものではなく、織田信長に敵対した一向一揆・延暦寺や、モンゴルに滅ぼされたホラズムや、普仏戦争時の第二帝政下のフランスなど、歴史的にみればありふれたものなのだと思います。

 中には、巨大な組織の上層部には優秀な人材が集まっているはずなのに、時として信じられないような失敗をするのは、わざとやっているためではないか、と言う人もいますが、これは邪推でしょう。たとえば、米国のイラク政策の失敗はわざとだという主張があり、あれだけ優秀な人材が集まっているのに、こんな失敗をするはずがないから意図的なものだ、というのですが、これは超人信仰の行き過ぎだと思います。

 どんな優秀な人でも判断を誤ることはありますし、優秀な人材が集まっていても、巨大な組織となれば、さまざまなしがらみもあり、「正論」が通るとも限りません。このような主張をする人は、古典や小説や映画やテレビや漫画などに登場する、創作された超人的人物・組織に毒されすぎではないでしょうか。また古典も含めて、「事実」を基にした作品といえども、記録されないことのほうが圧倒的に多いのだという常識的な判断をすべきで、少なからぬ英雄譚では、失敗は描かれないか軽く扱われがちです。

この記事へのコメント

2008年03月11日 22:30
私が田中宇を買い、自分のHPに勝手にリンクしているのは、たとえ彼の眼鏡を通してであっても、日本のマスコミでほとんど紹介されない事実が知れるからです。まあ、彼とは基本的な思想が違うとは思いますが、彼の分析の中で私が買えない最大のものは、ご指摘されたような「米国のイラク政策の失敗はわざとだという主張」です。
 今、確かにアメリカはかつての大日本帝国がのめり込んでいったような破局の道を歩んでいるのでしょう。その点については、これが米国内の一部勢力によって「わざ」となされているものかどうかは別として、田中宇も同意見であり、こういった状況の中で、「対米従属」以外に、なかなか外交戦略を持てない今の日本の現状に対して、田中は警鐘を鳴らしているのだと思います。
2008年03月11日 23:53
確かに、田中宇氏の提示する情報自体は、なかなか興味深いものが多いと思います。

そのため、田中宇氏の根本的な人生観というか世界観に疑問を感じつつも、私も田中宇氏の記事を読んでいます。

ただ、「国際情勢解説者」としてはいかがなものだろうとは思います。

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