小島毅『靖国史観-幕末維新という深淵』

 ちくま新書の一冊として、筑摩書房より2007年4月に刊行されました。靖国神社の起源が歴史的経緯の中で説明され、靖国神社が水戸学的価値観のうえに誕生し、その価値観が日本の歴史からすると新しいものであること、さらには靖国神社を誕生させた明治維新の評価や日本人・日本国家のありようについてまで論じられています。

 著者によると、江戸時代、さらには平安~室町時代の思想にまでさかのぼって、靖国神社の起源とその思想的前提を論じた、靖国論争では見落とされていた部分を論じた一冊とのことですが、どうも既視感がぬぐえないのは私だけでしょうか?もっとも、この既視感の中にはネット上での言説も含まれますので、印刷媒体としては斬新な切り口の一冊になった、ということなのかもしれませんが・・・。

 著者の意気込みというか熱意というか情念というか、そうしたものは強く感じられましたが、著述が暴走気味で、この点で読者に悪印象を与えるだろうということは、歴史的経緯の分析ではかなり説得力のあることが述べられているだけに、残念でした。もっとも、本書はいわゆる靖国論争に関わった人々を説得するためのものではなく、これまでの論争にたいする異議申し立てだと思われますので、これでもよいのかな、とも思います。

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