ネアンデルタール人の移動範囲は広かった
ネアンデルタール人の移動範囲は、じゅうらい考えられていたよりも広かったのではないか、とする研究が報道されました。この研究はまだ刊行されておらず、オンライン版での先行公開です。まだ要約しか読んでいませんが、国会図書館だと全文の閲覧・プリントアウトが可能なので、国会図書館に行ったときに、他の論文とあわせてプリントアウトしようと考えています。
ネアンデルタール人の移動範囲については長年議論されてきました。そのなかには、ネアンデルタール人の移動範囲はひじょうに限定的だった、という見解もあります。この研究では、歯のエナメル質におけるストロンチウム同位元素比が測定されましたが、じゅうらいの測定法よりもずっと少ない標本で測定可能な方法が用いられました。ストロンチウム同位元素は食物や水に自然に生じ、そのレベルは地域により異なるので、人体に吸収されたストロンチウム同位元素の分析により、その人がどこに住んでいたかが分かります。
分析対象となったのは、ギリシアのラコニス遺跡出土の、約4万年前のネアンデルタール人の第三大臼歯です。この分析が示しているのは、このネアンデルタール人が、第三大臼歯の王冠の形成期間(7~9歳頃と思われます)に死亡時とは異なる場所に住んでおり、その生涯の間に、少なくとも20km以上という比較的広範囲を移動していた、ということです。
論文の著者の一人エレーニ=パナゴパウロウ博士は、ネアンデルタール人の移動・植民範囲はかなり広く、組織化されていたと考えられるので、ネアンデルタール人が欧州の一部で現生人類と共存していたならば、ネアンデルタール人の移動範囲の広さが、両集団の文化的・生物学的接触を促進しただろう、と述べています。
しかし、ネアンデルタール人を研究しているジブラルタル博物館のクライヴ=フィンレイソン教授は、この発見が重要だとは考えていません。フィンレイソン教授は、この研究で用いられた技術は興味深く、多数の個体で分析できれば、ある種の復元像を得られるだろう、と述べています。しかしフィンレイソン教授は、ネアンデルタール人が生涯にあるいは1年間にさえ、20km移動しなかったとしたら、自分は驚いていただろう、我々は木ではなく人間の話をしているのだ、と述べています。
以上、この研究と報道についてざっと見てきましたが、興味深い研究ではあるものの、フィンレイソン教授の発言にもあるように、結論自体は画期的ではないように思います(分析技術は画期的かもしれませんが)。ただ、現生人類のアフリカ単一起源説が優勢となって以降、ネアンデルタール人を低く評価する見解が主流になったので、そうした見解からすると、この研究は意義深いと言えるかもしれません。
参考文献:
Michael Richards, Katerina Harvati, Vaughan Grimes, Colin Smith, Tanya Smith, Jean-Jacques Hublin, Panagiotis Karkanas, and Eleni Panagopoulou.(2008): Strontium isotope evidence of Neanderthalnext term mobility at the site of Lakonis, Greece using laser-ablation PIMMS. Journal of Archaeological Science, 35, 5, 1251-1256.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jas.2007.08.018
ネアンデルタール人の移動範囲については長年議論されてきました。そのなかには、ネアンデルタール人の移動範囲はひじょうに限定的だった、という見解もあります。この研究では、歯のエナメル質におけるストロンチウム同位元素比が測定されましたが、じゅうらいの測定法よりもずっと少ない標本で測定可能な方法が用いられました。ストロンチウム同位元素は食物や水に自然に生じ、そのレベルは地域により異なるので、人体に吸収されたストロンチウム同位元素の分析により、その人がどこに住んでいたかが分かります。
分析対象となったのは、ギリシアのラコニス遺跡出土の、約4万年前のネアンデルタール人の第三大臼歯です。この分析が示しているのは、このネアンデルタール人が、第三大臼歯の王冠の形成期間(7~9歳頃と思われます)に死亡時とは異なる場所に住んでおり、その生涯の間に、少なくとも20km以上という比較的広範囲を移動していた、ということです。
論文の著者の一人エレーニ=パナゴパウロウ博士は、ネアンデルタール人の移動・植民範囲はかなり広く、組織化されていたと考えられるので、ネアンデルタール人が欧州の一部で現生人類と共存していたならば、ネアンデルタール人の移動範囲の広さが、両集団の文化的・生物学的接触を促進しただろう、と述べています。
しかし、ネアンデルタール人を研究しているジブラルタル博物館のクライヴ=フィンレイソン教授は、この発見が重要だとは考えていません。フィンレイソン教授は、この研究で用いられた技術は興味深く、多数の個体で分析できれば、ある種の復元像を得られるだろう、と述べています。しかしフィンレイソン教授は、ネアンデルタール人が生涯にあるいは1年間にさえ、20km移動しなかったとしたら、自分は驚いていただろう、我々は木ではなく人間の話をしているのだ、と述べています。
以上、この研究と報道についてざっと見てきましたが、興味深い研究ではあるものの、フィンレイソン教授の発言にもあるように、結論自体は画期的ではないように思います(分析技術は画期的かもしれませんが)。ただ、現生人類のアフリカ単一起源説が優勢となって以降、ネアンデルタール人を低く評価する見解が主流になったので、そうした見解からすると、この研究は意義深いと言えるかもしれません。
参考文献:
Michael Richards, Katerina Harvati, Vaughan Grimes, Colin Smith, Tanya Smith, Jean-Jacques Hublin, Panagiotis Karkanas, and Eleni Panagopoulou.(2008): Strontium isotope evidence of Neanderthalnext term mobility at the site of Lakonis, Greece using laser-ablation PIMMS. Journal of Archaeological Science, 35, 5, 1251-1256.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jas.2007.08.018
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