フロレシエンシスは発達障害を伴う突然変異を有する現生人類?

 “Pericentrin (PCNT)”という遺伝子の機能損失をもたらす変異と、人間の体型の小型化との関連を指摘した研究報道されました。この変異があると、紡錘体の有糸分裂と染色体の分離が阻害されます。この変異をもつ現代人は稀ですが、この変異があると身長は1m、脳の大きさは三ヶ月の乳児ほどにしか成長しません。しかし、この変異があっても知性は標準に近いものがあります。

 また、この論文の著者の一人であるアニタ=ローチ博士によると、この変異がある場合、手や手首に例外的な骨があったり、頭骨が非対称だったり、顎が小さかったり、肩や歯が通常とは異なったりする、とのことです。これはフロレシエンシスの特徴と合致するものであり、フローレス島のような場所では近親婚の頻度が高まるため(狭く孤立しているから、ということなのでしょう)、こうした遺伝的変異が広まったのだろう、とローチ博士は推測しています。

 しかしリチャード=ポット博士は、この研究が整っていることを認めつつも、昨年9月22日分の記事で紹介した研究を挙げて、フロレシエンシスが現生人類との示唆にたいしては同意していません。フロレシエンシス新種説の代表的存在の一人であるディーン=フォーク博士も、この研究にたいするコメントのなかで、フロレシエンシスを発達障害の現生人類とする見解には反対しています。


 以上、この研究と報道についてざっと見てきました。フローレス島の更新世の人類の位置づけについては、まだ議論が完全に収束したわけではなく、今後も現生人類説に立った研究が提示される可能性はあるでしょう。しかし、ポット博士の指摘にもあるように、フローレス島の更新世の人類は新種フロレシエンシスである可能性が高いとみるのが妥当で、今後は新種説を支持する研究が増えることでしょう。


参考文献:
Anita Rauch, Christian T. Thiel, Detlev Schindler, Ursula Wick, Yanick J. Crow, Arif B. Ekici, Anthonie J. van Essen, Timm O. Goecke, Lihadh Al-Gazali, Krystyna H. Chrzanowska, Christiane Zweier, Han G. Brunner, Kristin Becker, Cynthia J. Curry, Bruno Dallapiccola, Koenraad Devriendt, Arnd Dörfler, Esther Kinning, André Megarbane, Peter Meinecke, Robert K. Semple, Stephanie Spranger, Annick Toutain, Richard C. Trembath, Egbert Voß, Louise Wilson, Raoul Hennekam, Francis de Zegher, Helmut-Günther Dörr, and André Reis.(2008): Mutations in the Pericentrin (PCNT) Gene Cause Primordial Dwarfism. Science, 319, 5864, 816-849.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1151174

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