ネアンデルタール人の絶滅と衣服の関係

 ネアンデルタール人の絶滅と気候変化・衣服との関係を論じた研究報道されました。ネアンデルタール人は寒冷気候に適応した形態だったので、保温性の高い複雑な衣服を縫う技術を発展させるのが遅れ、旧石器時代後期の短期間の大規模な気候変動に対応できず、絶滅しました。しかし、生物学的にネアンデルタール人よりも寒冷気候に脆弱だった現生人類は、それまでに開発していた石器技術などを用いて、保温性の高い複雑な衣服を縫う技術を発展させ、最終氷期も乗り切った、というわけです。

 ネアンデルタール人が絶滅し、現生人類と置き換わった理由として、狩猟技術の違いなどが注目されてきましたが、それを過大評価すべきではなく、もっと衣服の役割を重視すべきだ、というのがこの研究の主張です。9万年前までには現生人類が獲得していた、石刃や骨器などのネアンデルタール人にたいする現生人類の技術的優位は、狩猟技術の優劣と結びつけられることが多かったのですが、狩猟技術以上に、保温性の高い衣服を縫うさいに有利だった、と論文の著者であるイアン=ギリガン博士は指摘します。

 おそらくギリガン博士の指摘通り、ネアンデルタール人よりも現生人類の衣服のほうが複雑で保温性が高かったのでしょうが、それがネアンデルタール人の絶滅要因として、どのていどの比重があったのかとなると、現時点では断定の難しいところです。また、旧石器時代の衣服が現代まで残存する可能性がきわめて低く、石器などの間接的な証拠に依存せざるを得ないので、ネアンデルタール人絶滅の原因として衣服を重視する見解は、今後も通説となるのはなかなか難しいと言えるでしょう。


参考文献:
Ian Gilligan.(2007): Neanderthal extinction and modern human behaviour: the role of climate change and clothing. World Archaeology, 39, 4, 499-514.
http://dx.doi.org/10.1080/00438240701680492

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  • 人類の衣服

    Excerpt: これは9月17日分の記事として掲載しておきます。人類の衣服についての見解が報道されました。寒冷な地域へといたるその生息範囲から考えても、人類がすでに更新世の頃に衣服を着用していたのは間違いありませんが.. Weblog: 雑記帳 racked: 2013-09-15 19:04