ポリネシアと先コロンブス期の南米

 今年1月23日分の記事にて、『1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見』という本を取り上げましたが、同書では触れられていなかった事柄として、先コロンブス期におけるポリネシア人のアメリカ大陸への渡航があります。ポリネシアではすでに先コロンブス期にサツマイモが栽培されていたので、ポリネシアを研究する考古学者・人類学者の間では、先コロンブス期におけるポリネシア人のアメリカ大陸への渡航はほぼ確実視されていたのですが、1年半前に、それを裏づけるような研究報道されました。

 この研究では、チリのエル=アレナール1遺跡出土の鶏(Gallus gallus、赤色野鶏)の骨が一つ調べられ、放射性炭素年代測定法で検査されるとともに、2900~500年前のポリネシアの複数の鶏や現代の鶏とDNAの塩基配列が比較されました。エル=アレナール1遺跡出土の鶏の年代はおよそ14世紀(較正年代で紀元後1321~1407年)で、その塩基配列の変異は、トンガと米領サモアの鶏と一致しました(前者は2000~1550年前、後者はエル=アレナール1とほぼ同年代)。ただ注意すべきなのは、14世紀のエル=アレナール1遺跡が、ポリネシアから南米へと鶏がもたらされた唯一の場所・時期とは限らないということです。

 鶏には長距離飛行能力はありませんから、コロンブスのアメリカ大陸圏到達よりもずっと前に、ポリネシア人が南米に到達していた可能性がきわめて高いと言えます。ただ、欧州人と比較すると、ポリネシア人がアメリカ大陸へ与えた影響はきわめて小さかったと言うべきでしょう。これは、ポリネシアと欧州との社会的相違もあるのでしょうが、ポリネシア人のアメリカ大陸への渡航は偶発的なところがあり、さほど頻度が高くなかったためなのかもしれません。もっとも、ポリネシア人のアメリカ大陸への渡航頻度を検証するのは、きわめて困難ではありますが、現在の証拠から推測すると、その可能性が高そうです。


参考文献:
Alice A. Storey, José Miguel Ramírez, Daniel Quiroz, David V. Burley, David J. Addison, Richard Walter, Atholl J. Anderson, Terry L. Hunt, J. Stephen Athens, Leon Huynen, and Elizabeth A. Matisoo-Smith.(2007): Radiocarbon and DNA evidence for a pre-Columbian introduction of Polynesian chickens to Chile. PNAS, 104, 25, 10335-10339.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.0703993104

この記事へのコメント

2008年01月26日 00:55
確かハイエルダールでしたか、ポリネシア人の中南米起源説を実証せんと、コンチキ号による公開を行ったことはは多分?有名だと思いますが、新大陸原住民のアジア起源説がとっくに定説になったように、ポリネシア人のアジア大陸起源もとっくに定説化していると思います。たとえ、偶然性の要素が濃く、中南米にそれほどの影響を与えていないとしても、ポリネシア人の新大陸到来は十分可能性があったと思います。
 前にも書きましたが、私などは鄭和艦隊の新大陸到達も十分根拠のある話だと思うのですが。
 なお、ポリネシア人の「南海雄飛」については、まず彼らの起源は中国大陸にあり、それが沿岸の台湾に渡り、そこから太平洋はおろか、アフリカ沿岸のマダガスカルにまで広まったという説もあるそうです
2008年01月26日 15:05
ヘイエルダールは基本的にはまともな研究者だったのですが、この件では他の研究者たちにほとんどまともに相手にされていなかったようです。

ポリネシア人のアメリカ大陸への航海は、まず確実だとみてよいと思います。

おっしゃるように、ポリネシア人の起源については、現在アジア説が定説となっています。

ポリネシア人の起源については最近も研究が発表されていて、まだほとんど読んでいないのですが、中国南岸や台湾にいた集団から派生したと考えられ、とくに台湾先住民と関係が深いようです。
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pgen.0040019

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