気候変動と農耕の起源

 農耕の開始についてちょっと検索していたら、農耕の起源と気候変動との関係について論じた研究を見つけました。グリーンランドの氷床コアのデータを用いて、気候の安定を農耕の開始と関連づけた研究なのですが、「結論」の項でも述べられているように、まだ不確定要素が多いことは否めません。ただ、世界各地における農耕の起源の同時性を説明するにあたって、好都合であるとは言えます。

 もっとも、本文中でも触れられていますが、農耕開始の考古学的指標をどう評価するかは難問であり、世界各地の農耕開始の時期については、今後大きく変わることもあろうとは思います。ただ、アメリカ大陸で農耕が始まる前における、ユーラシア大陸からアメリカ大陸への農耕民の移住という想定はほとんど無理ですから、以前に言われていたような農耕の単一起源説が復活することは、おそらくないでしょう。

 それにしても、この研究の図を見ると、完新世とは本当に気候の安定した時期なのだなあ、と思い知らされます。農業と文明がここまで発達したのは、やはりこの気候の安定があったからだと考えるのが妥当なのでしょう。このような気候の安定がいつまで続くのかという長期観察を要する問題は、現代科学がもっとも苦手とするところですが、この問題についても今後の研究の進展に期待しています。


参考文献:
山本明歩「GISP2のデータに見る気候変動と農耕起源」『科学/人間』34号、P111-126(2005年)

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