アメリカへの移住に関する研究とアジアの各地域集団の研究

 アメリカ大陸先住民とシベリアの住民のDNA分析の結果、更新世のアメリカへの人類の移住の波は、シベリアからベーリング陸橋を経由しての一度または一つの集団からの何度かの移住であり、複数の集団による移住ではなかった、とする研究報道されました。

 その根拠として、アメリカ大陸全域とシベリア東部でしか発見されていない異形が挙げられています。この異形は、アメリカ大陸への移住の直前または直後に生じたものだろう、と推測されています。南米への移住については、海岸経路も示唆されています。その他には、アンデスと中米の先住民の遺伝的類似と、南米東部よりも南米西部のほうが遺伝的多様性があることも判明しました。

 もう一つの研究は、ある方にメールにてご教示いただいたのですが、北・中央・東・南西アジアの集団のミトコンドリアDNAの完全な分析に基づいています。その結果、新たに6サブハプログループが設定されます。南シベリアの集団のいくつかの系統は、上部旧石器時代後期または新石器時代初期の東アジアと南西アジア(南部コーカサス)から拡散したと推測されます。D2系統の分布など北アジア集団の詳細なミトコンドリアDNA分析が示しているのは、最初のアジアへの植民は北アジア経路ではなかっただろう、ということです。

 遺伝学からの人類史復元の研究の進展にはめざましいものがあり、今後の研究の進展が期待されます。人類のアメリカ大陸移住への関心は相変わらず高いようで、アメリカ先住民集団のDNA研究もしだいに詳細なものになってきました。今後、さらに詳細な集団移動が復元されることを期待できそうです。


参考文献:
Sijia Wang, Cecil M. Lewis Jr., Mattias Jakobsson, Sohini Ramachandran, Nicolas Ray, Gabriel Bedoya, Winston Rojas, Maria V. Parra, Julio A. Molina, Carla Gallo, Guido Mazzotti, Giovanni Poletti, Kim Hill, Ana M. Hurtado, Damian Labuda, William Klitz, Ramiro Barrantes, Maria Cátira Bortolini, Francisco M. Salzano, Maria Luiza Petzl-Erler, Luiza T. Tsuneto, Elena Llop, Francisco Rothhammer, Laurent Excoffier, Marcus W. Feldman, Noah A. Rosenberg, and Andrés Ruiz-Linares.(2007): Genetic Variation and Population Structure in Native Americans. PLoS Genetics, 3, 11, 2049-2067.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pgen.0030185

Miroslava Derenko, Boris Malyarchuk, Tomasz Grzybowski, Galina Denisova, Irina Dambueva, Maria Perkova, Choduraa Dorzhu, Faina Luzina, Hong Kyu Lee, Tomas Vanecek, Richard Villems, and Ilia Zakharov.(2007): Phylogeographic Analysis of Mitochondrial DNA in Northern Asian Populations. The American Journal of Human Genetics, 81, 1025–1041.
http://dx.doi.org/10.1086/522933

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